カテゴリ:本
「要するにさ、少女というのは近代の産物なんだよ」(p.255より)
本作は、3つの舞台から構成されるSF長編である。 一つ目の舞台は1627年ドイツの、魔女狩り真っ盛りな時代。二つ目は2022年のシンガポール。そして、2007年の鹿児島である。 上記のセリフは、未来のシンガポールで暮らす、ある3Dグラフィックアーティストのものである。 巻き込まれ型のタイムスリップSFは多い。 この作品も、現代から過去へ意図せずタイムスリップしてしまうパターンである。 しかし特筆すべきは、それがタイムトラベラーの視点(現代人)ではなく、過去の世界で生きている側からの視点で描かれている点である。 突然やってきた異邦の人。黄色い肌を持ち、変な服を着て、言葉の通じない女子高校生。 中世ドイツの舞台では、10歳くらいの女の子が主人公となる。 しかし、その物語の中で少女という言葉は使われない。彼女の行動、思考がつぶさに語られる。 ITが進んだ未来のシンガポールの時代では、25歳くらいの人工知能研究者の女性を、「恋人」の男性の視点から描く。その女性が、その時代の典型的な女性キャラクタとして扱われる。そして、彼女に開発された人工知能を「少女」と呼称する。 歴史を変えるような大事件の起こる物語ではなく、それぞれの時代をモチーフに、「世界とつながる」をテーマにして、人間の変わる部分と変わらない部分を浮き立たせつつ、独特の少女論を展開していく。 作者は、シンガポールの青年に、その時代の最も弱いものが、注目され、カルチャーを作り、大消費者となる、と語らせる。彼のいう「少女」も、いずれは滅亡し、新たな弱いものが出てくるという。 随所に遥か未来の時空管理者というのが出てくるが、その人間達は強化老人と呼ばれている。どの時代でか、老人が最も弱く注目されていた時期を経ていることを暗示している。 2006年の今、男女に関わらずニートや引きこもりという新たなクリーチャが出現している。 人間のカテゴライズに対する賛否両論もあるだろうが、時代を見つめるひとつの視点として、非常におもしろく興味深い作品であった。 『ブルースカイ』桜庭一樹/早川文庫 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 20, 2006 02:45:31 AM
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