テーマ:お勧めの本(7400)
カテゴリ:本
前の続きである。
3.決定論的宇宙 ここからが、順列都市の話である。 人間の精神活動を、コンピュータ内部で再現できるようになった時代。 精神活動は、ひとつの数値化されたパターンで表現できるといえる。(コンピュータで処理できるのだから) その数値化された脳状態(ニューロン反応等)は、その内部の刺激反応により、自らがパターンを変えていくことで、精神活動が行われている。 しかし、その精神活動は、本当に未来予測不可能な自由意志なのだろうか。 コンピュータ内でシミュレートされている脳の活動は、やはりニューロン伝達物質のシミュレーションの結果である。 現実の脳は、外界からの刺激に応じて、さまざまに反応パターンが変化する。 しかし、仮想現実の中では<コピー>に与える刺激も、同一のコンピュータ内で処理されるシミュレーションの一部なのである。 すると、ある初期状態の脳を含む仮想世界のパターンから、次のパターンは、すべて計算で求められる。 コンピュータは、数学で言う「ラプラスの魔」になるのである。 唯一の外部刺激は、通信によって外界からの情報を<コピー>が得ることである。実在する人間が、<コピー>に話しかける、外界のニュースを読む、といったことだ。 外界の人間の行動・セリフは、シミュレーションの範囲外であり、コンピュータの予想外である。 この要素さえなければ、仮想世界は<コピー>の自由意志を含めて、決定的な未来なのである。 4.永遠に向けて では、ある瞬間の精神活動パターンから、10ステップ先を一気に計算することはできないだろうか。 コンピュータ内部の計算において、nステップ目を計算するには、(n-1)ステップの結果がないとできない。(n+10)ステップ目を計算するには、(n+9)ステップの結果が必要なのである。 マウスカーソルを、右端に行き着かせるためには、右端の1画素左にマウスカーソルを表示した画像を出さなければならない。 これらは、順序性から解き放たれていない考え方だ。 画像パターンは、円周率(作中では膨大な乱数の海)の中に全てあるのである。左端にマウスカーソルのある画像の次に、右端にある画像があってもよいのだ。 決定論的宇宙であれば、精神パターンがnステップ目にあり、次に(n+10)ステップを計算することは可能である。 問題は、順序がなく存在する離散的データを、どのように選択して認識していくかである。 選ぶのは、外から見ている観察者ではない。内部にいる観察者なのだから。 パターンの計算に順序はない。したがって、次の瞬間までに次のステップの計算を終わらせなければならない、という制限もない。それはすなわち、演算能力の優劣は問わないということになり、計算方法についても自由である。地理的に離れたコンピュータで計算してもよいし、そろばんを使って何十万年かけて計算してもよい。 ただ、内部にいる観察者の意識は、乱数の海から自然発生はしない。 初期値を作り、そこから次を選ぶ、という動作をはじめさせなければ、次の自らのデータパターンを選択することができない。 この最初の一押しを、作中では「発進」と表現している。 この発進動作は、通所のコンピュータシミュレーション上で行われている。 一度、発進してしまった内部の意識は、その後、乱数の海からパターンを拾い上げていく。 そこに、時間的順序性も計算も必要ない。 これが、論理のアクロバットである。 【エデンの園配置(コンフィグレーション)】 もともとは、ライフゲームなどのセルオートマトンで使われている言葉である。 wikipedia ライフゲーム wikipedia セル・オートマトン モデリングシミュレイション入門(2006年度秋学期) 規定されたルールでセルの状態がステップごとに変化していくセル・オートマトンにおいて、初期状態でしかとりえないパターン配置のことを、エデンの園配置と呼ぶ。 wikipediaのライフゲームの項に説明されているが、セル・オートマトンのパターン変化は、以下のような種類に分類される。 (wikipediaより引用) * 固定型は世代が進んでも同じ場所で形が変わらないものを指す。 * 振動型はある周期で同じ図形に戻るものを指す。 * 移動型は一定のパターンを繰り返しながら移動していくものを指す。グライダーと呼ばれるものが有名である。 * 繁殖型はマス目が無限であれば無限に増え続けるパターンである。 仮想世界そのものの数値パターンが変化していくことで、仮想世界内の精神活動がされていくことを考えると、上記のパターンのうち繁殖型以外は、永遠の不死は得られないことがわかる。 つまり初期条件を注意深く決め、少なくとも初期パターンに戻ってしまってはいけない。 したがって、エデンの園配置からはじめないとならないのである。 【TVC宇宙】 チューリングマシンと呼ばれる、一次元のテープ上の自動機械がある。 それを二次元の方眼紙のように格子状に拡張したものが、セル・オートマトンである。 本作品の中では、この無限に続く二次元を、さらに六次元に拡張したオートマトンが2010年に定義されたとしている。 六次元とは、二次元の格子状世界を三次元の立方体にし、その立法体内に無限に続く三次元世界を置くことで、六次元にすると考えている。 この二重化された無限に続く六次元空間を、TVC宇宙、と呼び、宇宙空間が永遠に膨張し続ける論理的な基礎としている。 このTVC宇宙内で、エデンの園配置でもって<コピー>と仮想都市空間の数値パターンを置き、塵理論をもって<発進させる>というのが、順列都市のつくり方である。 さて、これで、読みたくなった人はいるかな!? -------------- 2007-05-15追記 こんな「現実」のニュースがありました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 15, 2007 01:25:02 PM
[本] カテゴリの最新記事
|
|