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2012年07月18日
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テーマ:實戦刀譚(65)
カテゴリ:實戦刀譚
 
  奇怪萬字剣
 
 
  刀柄の神秘性(二)

  
  研ぎ上がった新作刀に『切り柄』なる、太くて長くて重い仮柄をはめ、
 巻き藁や竹を切っただけの切れ味が、よし最上であっても、
 それのみでわざものの折紙がつけられ得るものでなく、
 すっかり外装を終わってから、その装備のままの抜き打ちに、
 または双手にかざして切り、はじめて帯佩のよさがわかるのであって、
 ここのところを誤っているのが、現在刀剣界の通弊のひとつである。
  槍は穂よりもその柄の製作にかんどころがある。
 これは万人等しく肯定できる事である。
 刺身の味の本当にうまいのは、刺身庖丁の刃の刃先と研ぎ面の細粗さと、
 更にその包丁の柄の太さ長さの加減にもよると、
 こんなことを真顔でいっていた食通がいた。
 人斬り庖丁の刀の刃もまさにその通りで、
 だから自分は、「刀の切れ味は柄からも出る。」と再三書いた。
 それは、槍、刺身庖丁同様、刀の柄にも
 製作上の別個のかんどころがなくては叶わぬからである。
 試みに、二尺三、四寸の刀を、
 両足を揃えて立ち、片手で頭上にかざしてみるがよい。
 柄の長さは、六寸でも七寸でもよく、五寸でも大して変わりはないが、
 ひとたび足を一歩踏み出して両手で構えるとなると、それでは物足りない。
 ここに、『二尺三、四寸の刀に、柄八寸。』の理〔り・ことわり〕、
 すなわち神伝『柄八寸の徳』がおのずから納得される。
  日本武道に抜刀居合い術の一頁を加えた、
 居合い術の創始者林崎勘助重信(又、勝吉)は、刀の柄の妙用と、
 刀の鯉口を切って鞘から抜き出される瞬間の妙機とに大悟一番、
 刀術の秘奥に達したのであった。
 出羽楯岡の林崎大明神に一百日の祈願をこめ、
 満願の夜夢中に顕現された『奇怪萬字劍』こそは、
 剣身の作用にはあらずして、実に柄と鞘の妙用であったのだ。
 こうした真諦の一端にも触れず得ずして、
 徒〔いたずら〕らに林崎勘助の刀術を語り、
 または物語を書くものがあるとすれば、それは外道だ。
  かくのごとき神秘さのこもる刀柄の詮索であるが、
 柄木を朴材にするのは、軽くてしなやかなためであるという。
 樫材にしたらよさそうなものだが、樫だとしなやかさを欠く。
 強いばかりではいけないのだ。
 柚材にすれば、それがいっそう強靭な上に
 さらにしなやかさの適性を加える。
 梓の割り材でも同然で、このしなやかさこつ合がある。
  その次に柄巻きである。
 堅く巻かなくてはゆるんでいけない。もっともである。
 さればといって、ばかに堅いばかりが能ではない。
 ただ堅いものを望むならば、絹ひもで巻く必要はない。
 「柄巻は、かたきうちにも毛一筋のゆるみがあるがよし。」
 と、ある武術の伝書に出ている。
  書き方は、太刀のような平巻きでも、ひねりでも、つまみでも、
 その人の手の内に聞いてやる事だが、
 絹よりも麻布や木綿で巻いた平巻きの方が戦いよいそうだ。
 皮卷きや生漆を塗ったものなどは、特殊人の好みで、
 例えば手の内の皮膚がざらざらしている人とか、手だこの強い人とか、
 生理的に適合する以外の人にはどうしたものか。
 ことに油手の人が、そうしたものを持ったら、
 つるつるしてどうにもならないだろうし、
 空気の乾燥しきった大陸の厳寒中に、皮手袋で握ったら、
 手ごたえがなく、手の内が所謂わらって困るだろう。
  柄巻き後の柄の太さは、右手で柄の鍔元三、四分のところを握って、
 拇指の腹が人さし指の爪のつけ根に軽くつくのを適度とし、
 拇指の先と人さし指の先がちょっとでも離れるのは、太すぎていけない。
 柄の頭を左手の小指がかすかに被うほどに持ち、
 左手の拇指の腹が人さし指の爪を押さえてやや余る程度なのがよい。
  そうしたにぎりを活用させるためには、
 柄の形を『りうご形』といい、
 八寸の柄で鍔元のあたりの太さを仮に一として、
 柄頭〔つかがしら〕の辺を 〇.九五、
 中央部を 〇.八及び至る 〇.七七
 くらいの割合でくびらかせる事であって、
 肝要な点は、刀の中心〔なかご〕に反りはあっても、
 柄には決して反りをつけない事である。
 前にもちょっと述べた、柄を握る秘伝に、
 ぬれ手拭いを絞るように持つ、とあるのは、
 このりうご柄の扱い方に最も適合した方法で、
 右手を鍔元の方へ絞りつつ押し上げるようにし、
 左手は同じく柄頭の方へすごき下げる気持ちで握るのであるから、
 ここにりうご形の“形状”が生きてくるのだ。
  最後に、刀身と柄の結合の具合だが、これにも秘法があって、
 「刀身と柄とのしまり加減、紙一枚のゆるみあるを要す」
 としてあるが、その一方法として、切羽と鍔との間に、
 鼹鼠〔もぐらもち〕の薄皮一枚を貼ったともいわれ、
 また竹目釘を必要とするのも、それがためだとされている。
 鯨のひげや、素銅の目釘を施す時には、
 なめくじの皮をそれに鞘のごとくかぶせて
 日陰干しにしたものを使用したといわれているのも、
 この理に叶い、とにかく、
 むやみにがちがちと堅く組み合わせる事は禁物であって、
 こうした帯佩上の柄の秘事は、
 いずれも武術の秘伝書にのせてあるところから考え合わせてみると、
 ますます、刀鍛冶の工作ばかりを中心として
 考えるわけにはゆかなくなってくる。
 刀の切れ味のひとつは、かくのごとく疑いもなく帯佩から出る。
 こう考えてみて、白兵戦場における不可解なる幾多の事象のひとつが、
 はじめてふんと頷かれるのである。






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Last updated  2012年08月18日 23時50分02秒



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