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2013年05月17日
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テーマ:實戦刀譚(65)
カテゴリ:實戦刀譚
 
 選刀問答集


  刀の鋩子すなわち切っ先の焼き刃ですが、
焼きも反りも、一枚のような深焼きの大切先は折れやすいのでいかん
という説がありますけれども、真実はいかがでしょう。
  ちょっとそのように思われますが、実戦の体験によりますと、
こうした焼きが長い間の痛切な経験から来たものである事が頷かれます。
それは、この鋩子の刃こぼれは、例えば、
切っ先の延びた鋩子の深焼きの部分だけで七分程もあるものが、
四分程折れたのを手がけました。
これなどは、残っている焼きの部分がまだ三分からありましたので、
水をかけながら、グラインダーでおろし、荒砥にかけたら、
ちょうど承元御番鍛冶時代のような、焼き詰まった猪首切っ先となりました。
すなわちこうした場合を考えて深く焼いたものでしょう。
 一体に切っ先の部位は、棟〔むね〕の方から見ると、一段と厚みがあって、
ちょうど蛇の頭のようにふくらんでいるのがよいのでありまして、
これは折れ難からしむるためであるのです。
それを、心ない研ぎ屋の手にかかると、
刀身と同じ厚みに研ぎ落とされてしまいます。
 序ですが、細めの直刃〔すぐは〕の焼詰〔やきづめ〕などもまた
武用的に実価値のあるもので、こうした切っ先はひどく曲がっても折れず、
刃も大こぼれしないからであります。
 また、名ある刀の中には、表と裏の焼き刃が、
一方は深く、一方は浅いのがあって、それが鋩子にまで及んでいるので、
何だか出来損そこないのように思われますが、
陣中で、そうした刀の刃こぼれ、鋩子にあった刃こぼれのあとが、
自然に斜〔はす〕かいに、
ちょうど片切り刃のようになっているのを見て、
これは万一の場合を慮〔おもんぱか〕って
意識的に斯様〔かよう〕な焼き刃をつくったもので、
必ず幾多の経験から生まれた結果であろうと思われました。
三戸徳川家に伝わったという有名な
『このて柏〔かしわ〕包永〔かねなが〕』という名刀が、
裏表の焼きが変わっていたというのも、
多分そうした理由の意識的作品であった事と思われます。
 





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Last updated  2013年06月02日 02時06分48秒



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