2013/11/08(金)16:38
遠き波音 -12-
そうこうしている内に二年が過ぎ、とうとう隣家の北の方が亡くなってしまった。
日が経つに連れて屋敷はますます寂れていき、最後に残っていた女童すら出て行ったそうだ。噂を仕入れる人さえいなくなってしまったと乳母は言い、思いがけず兵衛佐のことを悪し様に罵った。
「兵衛佐様というお方は、酷い人でなしでございます。隣の方々はあの婿君を大そう自慢しておいででしたが、いくら風采が良くても情のない殿方など何になりましょうか」
「何のことだ?」
いつも兵衛佐の噂ばかりしていて、密かに好意を持っていたようだった乳母が、どうして急に悪口を言い出すのだろう。
不審げに問う多聞丸に、乳母は汚いものでも吐き出すように言った。
「兵衛佐様は吉祥様を捨てておしまいになったのですよ。通って来なくなってから、もう二月になるとか。あれほど中務大輔様に恩を受けておきながら、世話をしてもらえなくなったからといって他の女に乗り換えるとは、あまりにも薄情なお方でございます」
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