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テーマ:ささやかな幸せ(6740)
カテゴリ:まいにちのきろく
「みんな ありがとう」 これは、私がいつも持ち歩いている祖母の辞世の書です。 3年前に99歳で亡くなった祖母は、晩年痴呆症状が現れて意思疎通が中々困難になっていました。箸を自分で持つことさえ難しくなり、食事の介護も必要になっていました。 ある日の昼下がり「何か書くものを・・・」と病院で突然口にしたので、その場にいた私は手持ちのペンと封筒を差し出したのです。 すると、大きく手を震わせながら、一文字書くのに必死という様相で、「みんなありがとう」と書きあげたのです。その様子は、さながら有名な書道家の先生が揮毫に望まれるような近寄りがたい雰囲気さえ漂っていました。 書き上げるとほっとした表情に戻り、またいつもの意思疎通が出来ない祖母に戻ってしまいました。そして、その後は二度とその手で何かを書くということなく、2年後に亡くなりました。 祖母は、生前痴呆症が出る前は、仏壇に向かい「有縁、無縁の皆様、今日お世話になった皆様、鬼籍に入られた方々、おかげさまでこうやって私も家族も無事に今日一日を終えることができました。ありがとうございました。」と手を合わせていました。 ですから、この「みんな ありがとう」には、きっと自分が生まれてから今日まで、そして死を迎えるその日まで、お世話になった人や物など全てに対してのお礼が込められていたのだと思います。 「有難う」は、出来るはずの無いような難しい事をしてくれた事に対するお礼の言葉という意味だとの一説があるそうですが、正にこの世に生を受けて死ぬ瞬間まで命の灯火を無事灯すことが出来るのは、簡単なようで実は大変な仕事ですよね。 人間の身体の臓器一つを取っても、それとそっくり同じ働きをするような機械を作るためには膨大な設備がいるという事を考えると、呼吸をし心臓を動かすような意識しない体の働きにすら、『ありがとう』と言いたくなります。 「皆様のおかげさまで、今日もこうして無事に生きることができました。ほんとうにありがとうございました。」そんな風にいつも自分の心に感謝の心を持って、日々を暮らしていきたいなぁと思っています。 そして、自分の心を奢らせる事の無いように、祖母の書を持ち歩いているのです。
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