森田理論学習のすすめ

2024/04/06(土)17:38

古下駄の話

物の性を尽くす(31)

「形外先生言行録」の61ページ片岡さんの次ような逸話が残っています。 「形外先生言行録」は森田先生生誕100周年にあたり(1974年、昭和49年)記念行事の一環として作られました。 入院生の森田先生との交流が、赤裸々に思慕の念を持って描かれております。 考えさせられること、自分の生活に取り入れたいことが満載です。 残念ながら現在絶版です。たまに持っておられる人がおられます。 また、岩田真理さんの「森田正馬が語る森田療法」はこの本から多くの森田先生のエピソードを紹介されています。 「縁の下をもぐって掃除していたら、きたない古下駄が一個出てきたので、ゴミを捨てる穴に持っていって、ポイと投げ入れた。その途端書斎におられた先生に、ちらりと見られてしまった。今何を捨てたのか。はい下駄を捨てました。燃えないか。はい燃えます。早々に梯子を持って来て、穴に入り、拾い出してきた。」 高口憲章医師はこれを読まれて、「森田先生は古下駄にどんな情緒を抱かれたのだろう。奥山の杉の種が必死に生き抜いて年月を経て大木になり、木こりが汗を流して切り倒す。筏師が命がけで杉の丸太を運び、材木商の手を経て下駄職人へ。杉の命は、商人の手を経て私の下駄になる機縁があった。すり減って捨てられるまで私の役に立ってくれた。使えなくなったからといって、どうして粗末にできようか、と考えられたのではなかろうか。」と発見誌に書かれていました。 森田先生は「物の性を尽くす」と言われています。そのものの持っている価値や能力をどこまでも伸ばしてゆこうとする考え方です。物だけではなく、自分も、他人も、入院患者も今現在置かれた状況の中で、できる限り「生の欲望」を発揮してゆくことを常に考えておられたのです。

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