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カテゴリ:失われた時を求めて
昨夜、テレビドラマでホストの話をやっていた。
TOKIOの松岡クン演じるホストが、売り上げを踏み倒されそうになるシーンで、 携帯もつながらずドロンした客のことを 「彼女を信じたい」とかなんとか言ってるシーンがあった。 それで、ちょっと思いだしたので、 ひとつ昔話でも…。 昔、父が自分の集めた本の山を売ろうとして、 稼業をいきなり古本屋に変えたことがあった。 「古物商」という肩書きが必要な商売だが、これは警察に申請すれば 簡単に取得できるものらしい。 事務所を本屋に改造して看板を出しておくと、客は来るものである。 最初は、自分の蔵書だけで始めたのだが、いつしか頼みもしないのに、 「買ってくれ」と、本を売りにくる人もやってきて、 父は、他の古本屋よりも、いい値段で買い取ってあげていたようだった。 っていうか、古本屋のやり方なんて学んでないから、 他の店の基準とか知らなかったのかもしれない。 いっぱしにレジスターも導入。 いいお金で買ってくれる古本屋なので、あっと言う間に本が増えた。 なんとなく古本屋らしくなった。 当然、私も店番を手伝わされ、レジを打っていたのだが、 やはり、そこは素人。 一度、大きなミスをしてしまったことがある。 5000円を10000円と勘違いして、7000円以上のおつりを渡してしまった。 その客が帰ったあとに、 「あれ?これ5000円札じゃん!あ!間違えた!」とすぐに気付いたけど、 客の姿はすでになく、私は、たいして売上のない古本屋なのに、 いきなり5000円の損失を出したのである。やばいじゃん! すぐに父に告げたが、意外や父は怒らなかった。 「きっと、返しにきてくれるよ!」 と、彼は言った。 私、母、妹の3人は「まず、返しにくるなんて、ありえないだろう」と 父の甘い考え方を否定した。 それでも父は、 「いや、世の中っていうのは、そういうもんじゃない、 あのお客さんは、きっと返しにきてくれるよ」と言い張るのだった。 その日、客は、ふたたびは現れなかった。 「返しにくる」「こない」の論争は続き、父は、意地になって、 毎日「きっと、今日、返しにくるよ」と言いながら、店を開けていた。 結局、その客がお金を返しにくることはなかった。 私は、父がこんなにも甘い考えのお人好しであることに驚いた。 こんな考え方じゃ、先が思いやられた。 ある時、今は見かけない「ちりがみ交換」の車がやってきて、 たくさんあるから本を売りたい、と言ってきた。 「ちりがみ交換」の本来のルートよりも、 父の店で本を売る方が金になると思ったのだろう。 普段、個人が売りにくるのとは比べ物にならない量に、父も心が動いたのか、 「ちりがみ交換」のオッサンと「これからもよろしく!」と仲良くなったようだった。 「ちりがみ交換」はその後、しょっちゅう現れて、本を売った。 その頃には、このまま古本屋としてやっていけそうな雰囲気も出て来ていたのだが…。 「ちりがみ交換」のオッサンが父に持ちかけた話は、 横浜の関内にあるショッピングビルのイベントスペースに申込んで、 そこで本を売ろう!きっとバンバン売れるぞ! というものだった。父は、すぐにその話にとびつき、イベントをすることを決めた。 詳細はどうだったのか、よく知らないが、 そのイベントをするにあたって、 店中の本を「ちりがみ交換」のオッサンに預けたのだ。 「ちりがみ交換」のオッサンの車に乗せて。 そのまま「ちりがみ交換」のオッサンは、二度と現れなかった。 ドロンでござる。 父の古本屋は、大半の本を失い、廃業となった。短かったな…。 さすがの父も「きっと、返しにくるよ」とは、言わなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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