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2020.07.04
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小説Qの革命

 

最後のバラの花びらが落ちるのを私は見た。

そう、私はついていた。

友人がお花屋さんなのだ。

しかし、彼女でさえ最後のバラを私にくれたのだ。

―マドンナ、2020326

 

あなたの86歳の誕生日にお花を贈ろうと思ったのだけど、

私の知っているお花屋さんはすべて閉まっていたので、

愛とお祝いの言葉だけを贈るわ。

お誕生日おめでとう。

-オプラ、2020326





 

マドンナの暗号

第1話     GRS(グローバル・リアル・スタディ)コース開講



2020/4/10(金) 
8:45AM

B大学国際関係学部 ホワイトキューブ前

 

「おい、クリス!」

「おー、竜崎。なんだ?」

「さっき、初美ちゃんが探してたぞ」

「げっ。そうか。サンキュー」

 

初美は、小学校からの幼馴染である。

僕は、B大学国際関係学部の3年生で、徳川クリス。正真正銘の江戸っ子だが、アメリカ人と日本人のハーフ。見た目はアメリカ人だが、あまり英語はできない。小学校の頃から、初美と一緒に行動すると波乱万丈というか、なんでも冒険になってしまうので、用心が必要だ。

 

先月完成したばかりの学部専用図書館「ホワイトキューブ」に向かう。新緑が美しい。大きな欅(けやき)の木々に囲まれて、真白な半円形のシルエットが浮かびあがる。その入口に初美が立っていた。ご機嫌の様子。

「クリース!おはよ~う」大きな、元気な声が周囲に響き渡る。


「お、おはよう」


「教授からのメール見た?」


「え?」


「なんだ、みてないの!」


「昨日は、ネットで大騒ぎだったんだよ」


「ふーん。それはいいけど。というか、だから、なんだけどさ」


「え?」


「課題が出たのよ。2-3人で一組になって、レポートを書くのよ。締め切りは来年の2月末だって」


「ふーん。どんなテーマなの?」


「それがね、マドンナのコードを解け、とか、なんだか訳の分からないテーマなのよ。あなた、ネットオタクだから、詳し・・・」


「ほんとか!」


「ど、どうしたのよ。ほんとよ」


「信じられないな。ま、いいや。よし、一緒にやろう」


「オッケー!」

 

ということで、ホワイトキューブの中に入る。

 

新型コロナウィルス感染症の拡大によって、都内の大学は殆どが休みである。我がB大学も同様だが、僕らの属する国際関係学部GRSコースだけは、学部専用図書館を利用して特別に開講することになった。

 

B大学は歴史と伝統を誇る有名大学で、その中でも、僕らのいる国際関係学部は、国際社会の現実に即した教育を行うことで定評があり、企業や官庁などから高く評価されているらしい。

 

そして、創立100周年を迎えたB大学が、新たな100年を見据えて打ち出したのが、GRS(グローバル・リアル・スタディ)コースなのだ。

 

この特設コースは、国際関係学部250名のうち、選抜テストをクリアした希望者12名と、学外から選抜で選ばれた12名だけが履修できる。学費など費用一切が免除されるうえ、成績上位者には信じられない高額の「研究費」が支給されるなどの特典がある一方、学内の寮で共同生活し、早朝のジョギングや学内清掃なども「軍隊式」に行うという、少しコワいところだ。

 

「しかも、知ってる?」と、ホワイトキューブ内の個人用ブースコーナーで、隣のブースから顔を突き出して、初美が言う。「GRSコースの学部長って、アメリカの軍人あがりなのよ!学生がたった24名の特設コースなのに学部長がいるなんて、正確にいうと、学部長待遇の責任者だけど、驚きでしょ。私たち、やばいところに来たかも・・・」

 

GRSコースの一番はじめの授業は、山城教授の「国政政治II」である。この教授は「謎の教授」と言われて、軍人あがりの学部長の特別推薦で、今年から教えることになったという。シラバスを見ると、授業のテーマは「トランプ政権と世界の変容」だ。

 

期待に反して、授業は淡々と進んだ。

 

少数精鋭の特設コースということで、はじめは緊張していたが、だんだん落ち着いてきた。個人用ブースの正面には、画面が5つあり、メイン画面に教授が映しだされている。メイン画面の左右に小さめの画面が2つずつあり、24名の学生全員の顔が見える。

 

授業の後半。


「さて、今日は初回だから、「課題」について説明して早めに終わりにしよう」と教授が言う。

 

「課題」というのは、2週間ほど前の326日に、ロックダウンで外出禁止となったアメリカで、芸能人のセレブたちがツイッターなどを通じて、「暗号」を利用して連絡を取り合っているのではないかという推測に関するものだ、と山城教授は説明をしながら、マドンナとオプラのツイートの日本語訳をメイン画面に映し出した。



最後のバラの花びらが落ちるのを私は見た。

そう、私はついていた。

友人がお花屋さんなのだ。

しかし、彼女でさえ最後のバラを私にくれたのだ。

― マドンナ、2020326

 

あなたの86歳の誕生日にお花を贈ろうと思ったのだけど、

私の知っているお花屋さんはすべて閉まっていたので、

愛とお祝いの言葉だけを贈るわ。

お誕生日おめでとう。

― オプラ、2020326



「マドンナやオプラはバラや花がないと書いている。しかし、この日に実際に花屋に連絡してみると、花屋はたくさん営業していて、バラの花を購入することに問題はなかったはずだという、ツイートした人がいる。学生の諸君に対する課題は、『この暗号(コード)を解き、なぜ、そのような暗号を用いて連絡をとりあっているのか、なるべく大きく背景を解説しながら、推論を展開せよ。』というものです」

 

教授が説明するのを聞きながら、クリスは


(正気か?)


と思った。


(こんなことをほんとに授業でやるつもりなのか)

 

「質問は?」と教授が訊く。さまざまな疑念が頭をよぎる。訊きたいことは山ほどあるが、授業で質問すべきことではないように感じて、黙っていた。

 

ピーン。


小さな音がして、前方右側の画面の一部が光った。


個人用ブースにある質問ボタンを押すと、質問者の顔を映している画面の周りが光って、誰が質問しているのか皆にわかる。

 

「他には?」教授が訊く。

疑問だらけだろうが、みんな様子見のようだ。

 

「では、イエローの竜崎君」

竜崎の顔がメイン画面に映し出される。

 

「イエロー」について少し説明すると、24名のクラスは、6名ずつ4つの「コーホート」に分かれている。コーホートとは、元は軍隊用語で、日本語で「小隊」という意味らしい。各コーホートには色がついていて、イエロー、グリーン、レッド、パープルの4つ。ちなみに、僕も初美もレッド・コーホート、つまり、「レッド小隊」に属している。

竜崎が質問する。


「昨日、教授からのメールを見たあと、自分なりに少し調べたのですが、これは、いわゆる陰謀論に該当すると思うのですが、よろしいでしょうか?」

 

(よくぞ言ってくれた。それが訊きたかったんだ)

と、クリスは思った。

 

隣の初美を見てみると、話についていけてないようだ。ぽかんとした顔をしている。

 

「それが、君の質問かね?」と教授が言う。


「はい」


「それは、本当に質問なのかな」と言って、教授が声を出して笑った。


(なんだか、ふざけているな)


と、クリスは思いながら聞いた。


「えーと、ほかに発言したい人?」

 

ピーン。発言を求める音。


「では、グリーンの緑川さん」


(彼女が緑川財閥のお嬢様か。評判通りだわ)と初美は思った。


黒髪が美しく、ドレスのようなワンピースを華麗に着こなしている。彼女が映しされている画面は、映画の一場面のようだ。

 

「私も竜崎さんのように、陰謀論じゃないのかと考えて、陰謀論について調べました」


「ほう。それで」


「ウィキペディアによると、陰謀論とは、ある出来事について、広く人々に事実として認められている公の情報やその解説とは別に、特定の組織や人物にとっての利益に繋がった策謀や事実の存在を指摘する呼称です」

 

「なるほど。竜崎君の質問が【ステージ1(=素朴な疑問)】だとすると、君は【ステージ1】を自ら想定して、推論を進めたってことだね。【ステージ2】だ。それで、どうなる?」


「一般的に言って、陰謀論に属することは、学問の対象にならないと思います」


「なるほど。それは君の『意見』だね。だから、君は黙っていたのかな」と言って、教授がまた声を出して笑う。


「他には?」

 

ピーン。


隣で初美が驚いた顔しているのがわかる。


「レッドのクリス君」


「はい」


「どうぞ」

 

「当初、僕も陰謀論で、とんでもないというか、とても授業でやることではないと感じていたのですが、今のやり取りを聞いていて、教授が出された課題の意図がわかったように思います」


「ほう。それは何だろうか」


「つまり、陰謀論と簡単に切り捨てないで、学術的に調査せよ、ということだと」


「どうして、そう思うのかな」

 

「なぜなら、我々の属する、今年新設されたコースの名称が『リアル・スタディ』だからです。苔むした理論を暗記したり、机上で理屈をこねくり回すのではなく、現実と向き合い、リアルに自ら調査し、自分で考えることが大切である、ということを教えるコースなのだと」


引っ込み思案の自分が、初めての授業で、みんなの前で、まるで演説のような発言していることが信じられなかった。隣のブースで初美が驚きながら僕をみつめているのが、見えるようだ。

 

「そうだ!」


教授はにっこり笑ってから、言った。


「今日は、それを言いたかったのだ。それが、【ステージ3】だ。よく言った。他には?」

 

ピーン。


「えーと、パープルのアンジェリーナさん、かな」


「はい、そうです。アンと呼んでください」


「いや、アンジェリーナの方がグローバルな響きだから、アンジェリーナで行こう(笑)。マレーシアの出身だね。で?」


「私も事前調査を行いました。白ウサギについても・・・」


​ 
***intermission(
​​幕間)***​




■謎の投稿者「Q」の第1の投稿
左上の「1」が投稿番号。

2020/7/4現在、Qの投稿は4580。

※下記がリンク(日本語にするには、画面左上赤字の「LANG:」でJapaneseを選択)
https://qmap.pub/?pg=1



***intermission(​​幕間)終わり***



「私も事前調査を行いました。白ウサギについても・・・」

ピーン。


発言の途中で音がして、アンの発言は遮断された。


「申し訳ない。アンジェリーナさん。発言の途中だが、あなたがよく調べていることはわかったが、それは他の人のヒントになりすぎるから、音声を遮断(ミュート)させてもらった。実は、それは【ステージ4】で、次回の授業で話す内容だ。選抜された学生ばかりと聞いていたが、なかなか、いいクラスだ」

 

(なるほど。みんな結構知っている)


とクリスは思った。

 

「成績の付け方を説明しておこう。成績は「授業」「提出物」「その他」の3つで決まる。授業と提出物が4割ずつで、残りがその他。「授業」は加点式のポイント制で、得点は公開する」

 

そう言って、教授がメイン画面を切り替えた。正面のモニターに、クラス24名の顔写真が映しだされ、その下にポイント欄が表示された。どうやら、「個人ポイント」と「団体(コーホート)ポイント」の合計で評価されるようだ。

 

「今日は初回だし、各コーホートから良い発言が出たので、全てのコーホートが1点ずつ獲得としよう。次に個人別だが、課題について発言した4名に1点ずつ。さらに、今日は、「最も授業に貢献した学生」に5点とする」

 

「最も貢献した学生って、まさか、俺かな」

とクリスは気持ちが昂(たかぶ)るのを感じた。教授が「よくぞ、言った」とまで言ってくれたのだ。隣のブースから、初美が僕を指さして、片目をつぶって笑った。

 

教授が続ける。「いろんな考え方があり、結局、私の独断的な評価になるが、今日、最も貢献したのは、イエローの竜崎君とする。彼に、もう5点」

 

(えっ!)


とクリスは思った。


(竜崎のはずないだろう。あの、間抜けな質問・・・)

 

ピーン。


アンが発言を求める。


「教授、なぜ竜崎君なのか説明してください」


「おお、アンジェリーナ。毎回は説明しないけど、今日は初回だからね」


東洋美人のアンは、早くも教授に気に入られたみたいだ。

 

ちなみに、このクラスには、外国人がざっとみて、10人はいる(学外からこのコースに入学した学生の殆どは外国人。僕は、日本人だけど、パット見は外人なので、この10人に含まれる)。

 

教授が説明を続ける。


「異論は多いかな(笑)。それは分かります。竜崎君の質問は間抜けでした。しかし、あの質問がなかったら、その後の重要な、今日の授業でどうしても私が言っておきたいことを含む、有意義なやり取りはなかったと言えないだろうか」


「ええ」


「あなたが、自分が事前に詳しく調べたことをアピールできたのも、言ってみれば彼のおかげだ。第一回目の授業で、よくわからない教授に対して、勇気をもって、一番初めに質問した姿勢が尊いと思わないかな。あの間抜けな質問のおかげで、そのあと、みんな質問がしやすくなった。クリス君の素晴らしい発言も出た。すべて、彼がきっかけを作ってくれたお陰と言えないだろうか。初回の授業のMVPにふさわしいのは、竜崎君だと思います」

 

授業が終わり、寮に戻る道すがら、初美がクリスにいう。


「なんか、訳のわからない授業だったわね」


「ほんとだよ。それにさ、俺がMVPなんじゃないかって、一瞬、期待しちゃったよ」


「私もそう思ったわ。クリス結構カッコよかったわよ」


「そうか!」


「ほんとうよ。驚いたわ。小学校の時からあなたのこと知っているけど、あんな積極的な行動は初めて見たわ。別人みたい」


「自分でも驚きなんだ」


「実は、私も少し変な気分よ。なんか私、妙にやる気が沸いたの!」


「へー」


「がんがんポイントを稼ぎたい気分なのよ。ねえ。今日は金曜日だから、夕食のあと、20:00にホワイトキューブで課題の打ち合わせをしない?」


「お、気合入ってるね」


「それまでに、私も少し調べてくから、クリスもね。課題の方向性についてのレポートは、来週の授業の直前までに提出でしょ。私よく知らないのよ。白ウサギとか、わかった?」


「まあね」


「そうなの!やっぱ、クリスと組んで正解。私って、天才!じゃあ、20:00ね」









※オプラのツイートをよく読んで!

「ピザ」ってなに?

「2ヵ月」ピザを食べないって、そんな重要なこと?

「そろそろ食べなきゃ!」ってなぜ?

アメリカで最も裕福な黒人のオプラが食べたいものってなに?

「ピザ事件(ゲート)」って聞いたことある?

「ピザ」って、暗号なの?

暗号を使って、連絡しあっている?

こいつら、ビョーキだぜ。

まだまだ、知らないことばかり。





***次回予告「第2話 ホワイトラビットを追え!」***

「ハリウッドのセレブ達が、暗号で通信しているのではないか?」という教授からの課題への答えを求め、大学3年生たちが冒険を始める。

コロナウィルス感染症の拡大により、外出禁止を余儀なくされた「血に飢えたセレブ」たちの奇妙な言動が禁断の世界を垣間見せる。人身売買の世界的ネットワークが存在するという、黒い噂は「根拠のない陰謀論」なのか。「ブラック・アイ・クラブ」とは、なにか? 
白ウサギを追え!

 



≪Qの投稿#74≫



※アリスは誰?

不思議の国はどこ?

初美やクリスの冒険は始まったばかり。


​​​​​


***読者の方の声***






​***作者より;2021年4月25日***


『マドンナの暗号』にお越しくださり、最高ありがとうございます。

さて、この小説は、「本邦初! リアルタイム連動・レッドピル・デジタル小説」です。

小説であるゆえ、第1話からお読みいただきたいのはやまやまながら、
2021年4月25日現在、第71話まで進んでいる小説に追いつくのは、大変です。

そこで。

下記のようにお読みいただくと、よろしいかと。

例えば、『名探偵コナン』のようなスーパー長寿アニメがありますが、必ずしも第1話から観る必要は無いように作られています。この小説は、そこまでできてはいませんが、途中から、お読みいただいても、なんとかお分かり頂けると思うのです。

ですので、下記からですと、「リアルタイム連動小説」の世界に入りやすいかなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

1. 2021年3月28日【シーズン2開幕】から読み始める。
   この時点までの簡単なあらすじなども、下記のページに用意してあります。
   ​こちらからどうぞ​。

※そうは言っても、いきなり【シーズン2】からではちょっと、という方は、はじめに第1話から第6話まで読んでいただくと、全体の雰囲気がお分かりになると思います。

2. 2021年1月24日時点、【第4部開幕】から読み始める。
   この時点までの、簡単な「あらすじ」と主要登場人物の紹介を記しています。
   ​こちらからどうぞ​。

3. 米国大統領選挙終了後の様子をまとめた「2020年、年末スペシャル(第48話)」から、
   読み始める。
   ​こちらからどうぞ​。


4. 2020年9月22日時点、【第3部開幕】から読み始める。
   2020年4月10日に始まった授業での基礎訓練が第1部と第2部で展開されたのち、
   第3部では、11月3日の大統領選挙にむけて、9月の終わりから、いよいよ現実と対峙します。
   ​こちらからどうぞ​。



***主な登場人物***




【学籍番号:GRS#14】Akatsuki 初美

『マドンナの暗号』のヒロイン。ネット情報やQに関する知識は【一般人レベル】だが、底抜けに明るい性格。






【学籍番号:GRS#17】クリス
「金髪のデジタルソルジャー17」こと、クリス。見た目は外人だが、江戸っ子! 英語は苦手。少なくとも第1話では主人公だった。ネット情報やアニメに詳しいオタク。初美とは幼稚園からの幼馴染。




​***読者の方の声***​











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Last updated  2021.04.26 02:23:28
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