眠れないので…
もしも人生去るものならば さようなら 来るべき人生よ 流れつつ もしも人生去るものならば 去るものならば もはや尋ねる要もなし 苦労の甲斐があるかどうかと 太陽はのぼり 口には歯ぶらし もしも人生去るものならば さようなら 最後の人生よ 精根つきて もしも人生去るものならば 去るものならば 歯車をもはや後にはまわすまい 雨はしげく降りそそぎ ぬかるみの泥だらけ もしも人生去るものならば さようなら 現在の人生よ 消え入りながら もしも人生去るものならば 去るものならば 夜が訪れ すぎゆくときも 世にことはなし 誰一人 暗い穴に投げ込まれる者もない もしも人生去るものならば 身近な人生は一つもない そこで人も立ち去る 思索に思いをこめながら すべてはこれ 迅速にして残忍なこと にもかかわらず すべては相つづいて去っていく 「もしも人生去るものならば」レイモン・クノー作 より全文引用▼記憶は絶えず、「現在」の時点から作り変えられている、作り直されている、もしくは更新されている、流動的なものだとしたら。▼もし記憶の構造が分子レベルで解明されたら、記憶障害の治療は可能だろうか。▼この詩に使われている「人生」という言葉を「記憶」という言葉に置き換えてみても、詩の真意は変わらないと思われるのは何故だろう。