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山口小夜の不思議遊戯

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2006年01月14日
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 妙に既視感のある景色。

 なんとなく見たことがあるな──と思ったら、十円玉の平等院だ。
 不二屋敷にもそっくり。緑を映す水をたたえた池の中、和様の建築がそびえている。

 ──・・・・・っ。

 豊は唾を飲み込む。
 なんとなく、‘滝洞の祠’みたいなただものならぬ雰囲気が、そこ一帯にだけ立ち込めている。だが、通ってきた門構えにはちゃんと‘水霊塚’なる石碑とともに、

 御泥弥五郎

 みどろ──と読むのだろうか、古びた表札までかけられていた。磨き込んだ廊下にただよう木の香りは清々しい。

 ──水霊・・・水霊塚・・・ここだったのか?

 先ほど、休みの日のつれづれに自分の部屋である東の対でひもといていた、郷土史本のなかに見た一節が、妙なインパクトを持って豊の腑に落ちてきた。

 (──このように時代とともに埋もれてしまったものが多い水霊塚であるが、鳥取県相生村不二屋敷参道のそばには比較的新しい時代のものが残されている。これを‘河童坂の
水霊塚’と呼び、地元の言い伝えによれば、  ↑●鳩の満漢全席●つまらんて?そうかもう寝る。
その封印が破られたときは・・・・)
                                              
 ──あ?

 ちなみに、外界から相生村に入るには、吊り橋を渡る通り道しかないのだが、その横から不二屋敷の前までがすごい崖みたいになっていて、それを村の人は通称して‘河童坂’と呼んでいる。

 思い出したもなにも、守宿の交代にまつわる一連の出来事が起こる前、そこをもろに滑り落ちてあやうく河童に沢に沈められそうになったことがある。

 (・・・・その封印が破られたときは──あまたの魑魅魍魎たちがあふれ出で、里に事をなすと伝えられている)

 ちょっと、うーむ、だ。なにしろ落ちながら、草木といっしょに、積んである石のようなものもかなり蹴っ転がしたような記憶が。

 (・・・・まっ、なにかあれば河童がとっくに文句言いに来てるだろ?)

 気にしないことにして・・・・ぱたんと重たい本を閉じたとき。

 その手をぴたっ・・・・と押さえられたのが、本日の運命の瞬間というヤツだったかもしれない。
 後ろから伸びてきたのは、節くれだった男の手だった。

 ──兄(あに)さま方を待たせて、主役の若君がここで読書三昧していていいのかね。んー?

 いつのまに、こんなのが背中に張りついていたんだろう!? 
 肩の後ろから見たこともないオヤジの顔が、ぬうっと突き出して眼が合った。

 ──うぇぇぇっ!?

 ───

 豊は突然現れたこのオヤジの手によってひとまず人界から隔離され、そこに迎え入れられたというか引きずっていかれたというか──何故に今まで気づかなかったか・・・・不二屋敷の裏には、沢から常にたちのぼる霧によって見透かすことができなかったが、堂々たる日本家屋があったのだ。

 藍色の作務衣を着て、豊の先を歩くオヤジは三十代から五十代までのいくつにも見える。髪は白髪まじりのオカッバ。時代劇に出てくる道場主みたいな感じだ。顔は穏やかに整っているが眼は胡散臭く、それでいて表情は全体的にぬぼーっとしている。水霊塚なる石碑の立つ屋敷に入っていくあたり、こいつもなにかのヌシらしいのだ。

 ちょうど京都御所かなにかのように、きれいな玉砂利の敷いてある庭がえんえんと続いて、霧の中、ピンク(?)の鳥居がそびえていた。横溝正史の世界そのものの怪しさ100パーセントなロケーションだが、沢を渡ってきたときに感じた物の怪臭い気配は、かえってきれいに消えている。

 とろりとした風のない日で──膝下を這うように流れてゆく霧が、ドライアイスのスモークみたいで、そこはかとなくわざとらしい。霧にうるんだ太陽──秘密めいた鳥居をくぐると、古着のデニムに白いパーカーのままの出で立ちの豊の方、食い入るような生きものの眼がそこかしこから突き刺さる。

 鳥居の奥に建物が見え、その内懐の大広間に案内されても、

 ──・・・・ったく、なんて騒ぎなんだ。

 はじめ、豊は自分が見ている風景の意味も考えられないままで、ぼんやりと立ち尽くしていた。

 ざっと見わたしても500名はいるかと思われる大宴会。
 だが、その上座に豊が見たものは、めまいのするような光景だった。

 そこにはすでに、円が鎮座ましましており、
 ──あ、ゆんゆんお先。カニしゃぶ食べ放題☆
 松葉がにの脚をくわえて、水木しげるかなんかの妖怪のように、ばりばり噛み砕いていた。

 ──本場下関フグ刺しもありますよ。
 お造りを持ってきた‘御泥多賀女’なる名札の‘黄桜キャラ’ふうの仲居さんがほほえむ。有田焼の皿に透き通る菊の花。

 ──ふぐ・・・・!? 久しぶりだあ!

 あきらかに異様なこの情景にもかかわらず、和はやはり化かされたのか、わくわくを顔ににじませ、円の隣に陣取って、さっそく箸を取り上げている。

 ──最高級東郷牛ステーキ炭火焼きも。主の弥五郎の差し入れですの。
 ──おおおっ!!
 ──すっげぇーっ! 来てよかったぜ!

 さらに大きなどよめき。すでに一同はそれぞれにかき込みはじめている。
 チッチッチ──なぜかストップウォッチを押して、静もフグに手をつける(←人体実験?!)。
 遼はカニみその乗った甲羅に満たした酒を飲み干し、

 ──うーん、太平なるかな。まさしくこれが桃源郷ってやつかもしれないね、ハニー。

 遅れて連れられてきた弟に、うっとりとつぶやいた。
 渋い紬の和装をして着物の裾を風にひらつかせると、けっこう飄々とした雰囲気にもなれる彼は、軟派な若き仙人みたいに見える。

 ──ゆんゆんの怪奇快気祝いだっちゅうが・・・・ずっとここにいてもええのぅ。イギリスでも日本でも、都会だとやはり住宅事情がいまいちだから、ハレムに可愛い子がそろっても、しがない近未来的建物で暮らさせてあげるのは、おれ的に美意識にさわるってゆうかぁ。

 郷に入っては郷に従え──で、遼の使う御詞(神聖語:カミサマと話す時に使う)の意味は誰にもわからない。

 ──はるさん。木の葉っぱじゃないの、ぜんぶそれ。
 あまりの異様な光景に柱にすがっていた豊は、視線で遼をちくりと刺す。

 ──平気。狐狸(こり)じゃなくて河童だから。
 遼はふり向いて笑顔を見せ、また夢みるように天井あたりに視線をさまよわせる。

 ──さよう。
 ──・・・・っ!!

 慣れねーな。
 なんでこう妖怪ってのは・・・・いつも突然なのだろう。

 もう一度へたり込んでしまった豊を前に、わりと砕けたしぐさで弥五郎オヤジは輪島塗の上座に肘をつき、卓上にあった40度のルスカヤ・ウォッカをくーっと瓶から飲み干すと豊にたずねた。
 
 ──・・・・これが、ぬしらの酒か?
 ──はぁ。
 答えておく。ロシア製だけど。

 ──悪うない。御魂鎮(たましずめ)の儀に際して、わしら一族の嗣子を借り受けるかわりにと、不二の長兄が水霊塚に差し入れたものをとっておいたのだ。供えものとしてな。
 ──・・・・???
 
 ますますわけわからん──小首を傾げる豊。

 柳のような眉を寄せている弟を、泰然とした微笑を浮かべて眺めている遼。
 だが、その様子をよくよく見透かせば、言いようもない愛しさを臆面もなくたたえているように見えて──片目だけをチラッとすがめ、弟に気取られたことがないかチェックしている。そんな兄の意味深な様を勘ぐる気配もなく、

 ぼく、ウォッカよりビールの方が飲みたいなぁ・・・・などと豊が無邪気に思った瞬間(←よい子はマネしないように)。

 プシッ──にゅぅぅんっ。

 ──ゆたさん。
 カッパのミッチーが、襖の向こうから現れて、水かきのある手でバド缶を差し出してくれたのだ。
 
 今日はなぜか市内に新装オープンした、不二一族の姉妹たちのワンダーランド、ドラッグストアのスタッフの制服を着ていて、‘御泥源五郎’という名札をつけているところを見ると、それが本名(?)なのだろう。

 ──あ、カッパ。
 
 豊にひと目で判断された水霊は、尻のポケットから財布を出して万札を相当数ひっぱり出すと、いそいそと心の皇子さまに差し出した。

 ──これ、バイトでためたんです。ゆたさん、どうぞお持ちください。
 ──ええっ! カッパからそんなのもらえない・・・・・どうして?
 ──えと、快気祝いに。ゆたさん、エアコン欲しがってたしょ?
 ──そうだけど・・・・・自分でなんとかするつもりでいたし。
 ──ですが、ご不自由でしょうから。

 豊にまともに顔をのぞきこまれ、水霊は水かきがしっかりとついた細い指をもじつかせた。

 ──ちなみに、わしは‘カッパ’じゃなくて水霊です。
 ──どう違う?
 ──いいから水霊です。

 どさくさにまぎれて豊の手をにぎりしめ、もう一度紙幣を渡そうとする。 豊はおもしろがって言ってみた。
 
 ──ぼくにくれるんだとしたら、これだけじゃ足りないよ。
 途端、水霊は上向きの鼻の穴をふくらませた。

 ──・・・・っ! おいくらならいいんで?
 ──・・・・5000万円もらっとこうか。
 ──ブラックジャックですかぁっ!?

 彼があくまで受け取らないと見るや、ドレッドヘアを掻きながらぼそぼそと水霊は、

 ──あ。ゆたさん、さっき吊り橋のたもとで、ご親友のすせりなさんが思い詰めた顔をしておられました。お屋敷に向かうのをためらっていらっしゃるようで。
 と、気をそらすようなことを言った。
 ──マジで?! 

 またまたやっかい事が増えたのだ。
 若君が盛大なため息をついている間に、水霊は気づかれないよう、すばやくデニムの尻ポケットに紙幣をねじ込もうとする。

 だが、やはり気配を感じ取ったか、豊はじっと水霊の方を見つめてきた。
 気圧されたように、ソフトタッチが未遂に終わった手を引っ込める水霊。

 ──5000万円だったら、ほんとにもらうから。
 ──え・・・・。
 ──たまるの待ってる・・・・100歳を過ぎても。

 髪には‘天使の輪’が出来ているくせに顔立ちは知性が透けて見える小悪魔系の顔で口の端を上げて笑い、

 ──じゃなっ!
 ──おわっ!?

 どこから出現させたのか、ひとかかえの水しぶきを水霊の膝にうち、彼の驚きの声をあとにして、豊はその場から離れた。

 ───

 兄たちにしたのと同じように、親友にも一連の出来事をぜんぶ話して泣きを入れるため、豊は綾一郎の待つという吊り橋のたもとに赴こうしていた。

 勢いよく母屋の扉を開け、一階の廊下を走り抜けたとき、囲炉裏端のほうから小角さまの、いつに変わらぬのんびりとした声がかかる。

 ──ゆんゆん、戴冠披露の儀にはまだ早いんじゃないか?
 ──パパりんは遅刻せんでくださいよ。わし、たぶんダメ。
 ──はい?

 ネコ科の俊足を躍らせて豊が母屋から消えようとした後──。

 台所のテーブルに坐っていた妹の編がひんしゅくの声を上げた。

 ──ゆたさんっ! 食事中に走らないでって言ってるでしょーっ!!
 ──おまえこそ、ヨーグルト以外のものちゃんと食べよるんか?

 なんの心構えもなしに妹の方をふり向いた──そのとき、豊の血液が思いきり逆流してしまう。
 ──ゆたさんのお客さまだって思ったから、お茶出しちゃったよ? いいよね?

 ──貴様ら、遊行する神だからって・・・・うちに遊びにくんなーっ!

 妹の向かいの椅子の上に(豊の定位置に)、銀髪の飛櫛尊が座っていて、妖狐とともにちゃー飲んでいた。





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最終更新日  2006年01月14日 04時18分23秒
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