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山口小夜の不思議遊戯

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2006年01月15日
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 ──ヘッロ~、エブリワン。チェック、チェック、マイクチェック、ハッ! 本日の朝礼係は不二遼だ。

 中庭のほうからアホタレな大声が響いて、ちょうど縁側から庭に降り立ったばかりの豊は、朝の光の中で自分の顔が青白いネガに反転していくのを感じ・・・・思わずそこらにあった石燈籠にすがってしまう。

 ──ボーイズ・ビー・アンビッシャァ~ス! 今日の議題はこのたびの守宿の代替わりにともなう、諸々の変更事項について取り上げる。維新は近いぜよ!

 向こうを透かして見ると、いつの間にかしつらえられたステージに、新撰組の羽織も青々と、遼がひっつめを風にそよがせている。
 なにを考えているのか、ワイヤレスマイク片手に朝礼のために集まってきた魑魅魍魎たちを見わたし、御詞(神聖語)で語りはじめたところだった。

 ──かなりモノノケっぽいレイディース、エ~ン、ジェントルメ~ン。キミたちはこの里の守宿の制度に満ち足りているのかな!? 山の神が守宿を独占することに、ムッとしたりしていないかなっ? もちろんヒュー(飛遊櫛尊のことか?)は今年2052歳になっても美形とゆーのは認めるが。うん、あれぐらい若作りだってこと自体、並大抵のことじゃないんだよ。たしかにヒューはすごいよ、うん。

 ──おおおおっ!

 遼は長男でありながら、豊ほどには御詞(神聖語)をうまく話さない。神霊たちに伝えるためには、遼も無理に御詞を使わなくてはならないため、彼の言わんとしていることは、ますますわかんなくなってくる。だが、なにを言っているんだか、くらっとめまいを感じながらも、ギャラリーがついつい引き込まれてしまう──ナゾのカリスマに満ちた喋りをするのだ。

 ──さてさて・・・・・この度の御魂鎮(みたましずめ)の儀にあたっては、水霊をはじめ皆の衆のはたらきお疲れさんだった。そこで頼みごとついでに、本日の朝礼のテーマとしては、これからみんなに全妖怪投票に協力してもらうことを宣言する!
 ──なんだ、なんだ・・・・・?

 遼の身近にいるオーディエンスも、なんの騒ぎかと集まってきた不二屋敷の呪方一族も、ざわざわと顔を見合わせた。

 ──・・・・・・と、いうわけで山神に捧げるためだけの守宿なんて役、ナシにしねーか? 今後は竜骨を持つ子供が生まれても、守宿は誰のものでもない。そこに在るだけで意味を持つ御神体っての・・・・・・それでいいかどーか、拝殿の賽銭箱のなかに明朝の礼拝時間までに投票してくれ。

 ──そんな! いくら不二一族の長兄だって、そんなこと決めるなんてできないのでは。
 ──でも・・・・たしかに守宿御統(すくのみすまる:28代で一巡する最後の守宿)の後が立たなければならないって決まりはないんじゃ・・・・?

 ざわっ。さすがに魍魎たちは波を打ったが、

 ──その代わり、誰のものでもない守宿の御神体は、今後すべてのモノに貸し与えることを可能とする!
 ──おおおっ!

 あるもんだと信じ込んでいたものがカクンとはずされ、ないもんだと思っていたものが許され──違う景色が見えたみたいに、わけもなく嬉しくなって、聞いていた全員が叫びはじめた。

 ──相生の夜明けは近―い!!
 ──おおおおお☆

 根拠なく言われると、ついみんな歓声を上げてしまう。

 きらきらと夏の陽射しに映える、およそ500人の聴衆を見渡す遼の立ち姿。
 あまりこうやって大勢の物の怪の前で演説をすることのない不二一族なのだが(ないだろフツー)、口を開けっ放しで見惚れるギャラリーもちらほらいるのを見れば、彼ら魍魎たちが喜んでこの一族の呪師としての君臨を許してきたというのがわかる。

 ──わし的にも昨晩遅くにヒューに呼び出されて話し合いを持つまで、大それた改革の意志はなかったが・・・・しょうがないのだな人徳だから。ちなみに密会は拝殿にてふたりきりで行なわれたが、ヒューとわしには肉体関係はまったくないぞ。

 ──あってたまるか(怒)。
 ギャラリーに紛れて最後列にいた静が白い眼で遼をにらむ。

 ──はるさん・・・・・。
 いつもの寝坊が理由で、朝礼に遅れて入ってきた円は、まぶしさと同時にちりりと締めつけてくる胸の痛みに瞬きをする。

 ゆうべ風呂上りに囲炉裏端を通りすがったとき、障子越しにふと垣間見てしまった光景が脳裏に甦ってくる。

 そこには遼と静がつれづれに集っていて──隅には豊が居所寝しているようだった。
 ほの暗い蝋燭の光に照らし出される弟のあどけない寝顔に、遼が眼を細めている。よく見透かせば、ぎりぎりで王国の危機を切り抜けた若き王の誇りにも似た痛さを横顔に漂わせ──。

 その傍らに座り込んでいた静が、リーチの長い腕を差し伸べて、兄の肩に手をやる。涼しい風に抱かれるみたいに、遼はゆったりと静に寄りかかって身体を伸ばした。

 (・・・・・・ここまでしたのにね)
 つい視線で言ってしまった静に、
 (しずかもよくつきあって・・・・・)
 遼も瞳で苦笑していた。

 なにを語らっていたのだろうか──今朝になっては問い詰めることもできない。

 まだざわざわとさざめく妖怪たちの後ろから、
 ──お~い。わしら、ゆんゆん守るためならなんでもやるっちゃよ!
 頭上高く掲げられた円の右手と左手には、それぞれ静と和が吊り下げられている。

 ほけほけと三人に向かって羽織の袖を広げる遼。
 ──ファ~ンタスティック! 新たな守宿の理(ことわり)のアシストをする、と? 感心な心がけだぜよ。

 遼がマイクをOFFにして、ステージを下りてきた。立候補者(?)三人の肩を抱く。
 ──おまえたちこそ、心中くらいの覚悟を決めないとな。知ってのとおり、相生の守宿なんてのは最悪の神々雑用係だ。今までは竜骨って名のある貧乏クジひいた者がやってた仕事だが、これからは兄弟がこのなりわいを分担して行なう。まずはその手始めに、今からちょっと実地で働いてもらうぜ?

 ──こうなったらもうなんでもいいけどさ、なにすりゃいいのさ、はるさん。
 和の問いに、言うのを楽しみにしていたんじゃないかと疑うくらいの会心の笑みで、
 ──いちばん楽しい仕事を、さ。
 遼の唇が三人の耳元で動く。
 ──いっしょにあそぼ。神さまたちと☆

 ふーっと力が抜けて、豊はすがっていた石燈籠に背をあずけてもたれかかる。

 滝洞から生還してからの日々は、かくのごとくどうにもこうにもな雰囲気のうちに明け暮れていた。
 だが、今朝のこの一件からもうかがい知ることのできる兄たちの理解度からすれば、地神にしばられているだけの守宿のなりわいを自分の代でなんとかしたいという豊の当初の目的だけは、しっかり達成されたことになろうか。
 豊は体勢を立て直すと、ひとり中庭をあとにした。

 そのまま拝殿に向かう。

  帳(とばり)に仕切られた巨大な神殿の正面に立つと──その結界越しには、幼い頃からいつも傍にいて支えてくれていた、兄たちひとりひとりの顔が透けて見える。
 豊は前方の闇を見据え、八手総拍手(やつでそうはくしゅ)を以て神々に言い切った。

 ──あんたたちの眷族はあそこにいるヤツらだ。仕切るつもりならけっこう手強いよ?
 誇らしげに楽しげに。

 ──ノーテンキな多数派に見えたって、この里でしぶとく生き残ってきた連中なんだ。

 オトナになって知ることができた・・・・・あらゆる艱難辛苦を体験させられ、身体の節々には物の怪たちにつけられた傷跡が残っていても、みんな次の日には立ち直っている角(すぼし)組である。
 なんだか、この生きることにどこまでもポジティブな熱意と熱気って・・・・・自分の越し方の、いずれの時かに戻ったような錯覚さえも感じてしまう。

 そう──それは自分をとりまくすべての世界が高速でまわっていた、あの生まれたばかりの頃に似て。

 ───

 翌日──。

 ──聞いた話を総合すると、知らぬは本人ばかりなりってわけだ・・・・・おまえ最低。自分の影響力知らないって、傲慢の一種だ。

 それはもう、くらったくらった。
 蝉しぐれが降り注ぐ吊り橋のたもと──説教魔の静に慣れされているはずの豊でさえも、胃壁から血がにじみそうになるくらい、田中綾一郎は里の‘正論’最終兵器なのだった。

 だがこれにより、古来稀なる正義漢として不二一族に見込まれた、選挙管理委員長に田中綾一郎を据えての投票の結果──開票率65パーセントで、圧倒的多数により29代以降は守宿を山神に捧げる人柱制度の廃止が決定。

 守宿は相生の里に縛られることなく、現世であればどこに在っても守宿に変わりはないこと、これまでのなりわいはすべて山神をその身に封じるための呪法であったため、大神が遊行に出た今はこの必要はもはやないこと、などが確認される運びと相成った。

 もともと、けっこう尽くすたちの・・・・・・相手のために身体を動かしているうちに親しみが増してくる体質の綾一郎は、この選挙に関わったことで、不二屋敷での一件もなんのその、すっかり機嫌を直してこれまで通り豊の親友を張ってくれている。

 さらに、豊が綾一郎を通じて田中一族に流したガセネタ──。

 《県内の某村長、村役場の男性職員と駆け落ち未遂したうえに宇宙人飛来を隠蔽していた》疑惑が全村民の注目をさらってくれたおかげで、豊の身に起きたことはたいした追及も受けないうちに、里の人から忘れ去られていったのだった。

 そうしてまた数日の後──。

 ──最近、食卓に円とはるさんが足りない・・・・・。

 そうひとりごちながら豊があたりを見回せば──。
 彼自身の快気祝いやら守宿の戴冠祝いやらにかこつけた連日の宴会のドサクサの中、なんらかの理由で祠に入り遅れたり、塚に帰りそびれたり・・・・・呪方としても始末するわけにもいかず、放置している連中が屋敷のあっちこっちに居ついてしまっている。

 ──ふむ、けっこう美味であるな。
 ──それオレが育ててた焼き鳥だ。勝手に喰うなよヒュータロ!
 ──あっ、自分のぶん持って木の洞に逃げんなヨーコちゃん!

 庭に茣蓙を敷いて座り込み、スズメの焼き鳥を奪い合っている、飛遊櫛尊と遼、そして円。

 ──・・・・・・野生化している;

 その一方では、焼き鳥のくしをくわえ、嬉しげに楓の大木の洞に身をひそめる九尾の狐。
 ──・・・・・ヨーコちゃんって・・・・・もしか・・・・・妖・・・・・狐・・・・・。

 問題は──それがあんまり、いつもの光景と変わらないこと。

          


                              番外編『不二一族物語』

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 追記:八手総拍手とは、最も正式な拝礼の仕方で、‘八拍手’に‘短拍手’(みじかて)、つまり‘二礼二拍手一礼’をつけることをいいます。ちなみに、手を合わせる際には、左手の第一関節まで右手の指先を下げます。

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 皆さまとともに作り上げてきた番外編が、おかげさまで本日をもちまして完結いたしました(以下、コメント欄に追記させていただきます)。

 さて──明日から本編に戻ります。第十章、天高く馬肥ゆる秋●風になれ●です。
 実に36日ぶりの本編開始となります。ちからわざで戻しますので、どうか皆さまもシフトロックしていただきたく、お願い申し上げます。
 タイムスリップして、遠くなってゆく昭和の鳥取の小さな村においでください。


 ああ、番外編を書けて楽しかった! ありがとう! ありがとう!
 不二一族の呪師の方々、お元気で!
 私はみんなのこと、大好きだから!





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最終更新日  2006年01月15日 04時29分26秒
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