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山口小夜の不思議遊戯

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2006年07月02日
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 『イカとタコ』 第5節●秒殺●

 そんなわけで、留学生は開店休業して本日も学生探偵と化した豊は(何をしても食っていけるヤツだなキミは)、ターゲットの帰宅時間を狙い、彼女の研究所の玄関前にうずくまったのだ。

 連夜の雨だった。
 見上げれば、放射線上に降り注ぐ雫が街灯にきらめいている。
 深夜零時を回ったころだ。
 キュキュッ、ザリザリザリッ──。
 駐車場に現れるしなやかな姿。薄いベージュのジャケットにチェック柄の傘。
 (来た、来たッ!)

 郭錦詩、三十歳。               ここクリックしても開きません↑
 王志軍と同じ大学で有機化学を研究している。専門は発光素子だとか──このへんのことは豊にとってはどうでもいいこと、だ。理系分野に関する彼の知識を総動員したとしても、“小さめの研究”なのだろうということがわかるくらいなものだ。
 やせ型で身長は170センチ前後。豊より10センチばかり低いが、女性にしては相当に上背がある。血液型B型。デンマーク育ち。北京在住。時折アメリカに出没。
 理系オタク臭さを感じない、モデルのような洗練されたファッションや立ち居振る舞いは、かねてから確認済みだ。

 カツ、カツ、カツ・・・ン。
 彼女の靴先は、暗闇でアスファルトに這いつくばっている豊の手を踏む寸前で止まる。
 「・・・っ・・・」
 一瞬はたじろいだように錦詩はまばたきしたが、好奇心に満ちた眼差しを、あきらかに年下だとわかる豊の背筋の線や、小さな顎の横顔にやたらと直接的に注いでくる。
 ゾクッ・・・。
 予想もしなかった寒気が、豊の身体を駆け上る。
 (・・・こいつ・・・怖ぇ・・・)
 どちらかというと清純なイメージは吹っ飛んでしまった。
 長い前髪に半ば隠れた目に宿る妖しさ。
 研究のためならば人間も実験台に使うことを厭わないであろう人柄を、妙にダイレクトに連想させる。
 (やっぱ危ねーかも。甘くみたらヤケドするってタイプ・・・)
 サシで向かい合わなければ、わからなかったろう。

 「なにしてるんですか?」
 と聞かれて、すみませんと答える。実際、思い出すだけでもアタマに来る世襲儀礼及び各種妖異襲撃以外の、こういったナマのターゲットに接触というケースは久しぶりである。こんな教科書どおりの応対で大丈夫なのか──首をひねりつつ、豊は芝居を続ける。
 「コンタクト落としたんです。酔っ払った友人を運んできた帰りなんですけど」
 「コンタクト?」
 鳩を思わせる、妙にくぐもった声。クサイ芝居を気にする豊のそばに、
 「ここ、暗いですからね。無理かも」
 無造作に錦詩はかがみ込んできた。
 (おおッ!)
 もう少し細かい演技をほんとは続ける予定だったが、
 「うわぁっ・・・・ち!」
 豊はよろめいたフリで、側溝の泥水の中に尻もちをついた。
 「しまった。あんまり見えていないもので」
 「大丈夫ですか?」
 差し伸べてくれた手を掴みかけながら、豊は錦詩のパンプスのヒールの下に、かねて用意のハードコンタクトを放り込む。

 ピキッ。

 気まずげな沈黙。
 錦詩はヒールを上げ、踏み割ったものを指先に取る。
 「ごめんなさい。私の研究室のシャワーで、泥だけでも落としますか?」
 「いいんですか? それじゃ」
 豊はためらいもなくついてゆく。

 ターゲットに接触して事の解決方法を探り出すつもりが、すでに返り討ちで秒殺されている自覚もなしに。

 ───

 その頃、静は東京の郊外に内科の老医を訪ねていた。
 例の扇風機の“冷たいカルテ”について確認しなければならない点がいくつかあった。老医は診察のほとんどを息子に譲り、自身は週二回の診察と往診を受け持っていた。“大先生”を指名されることも多く、なかなか隠居は出来ないらしい。

 医師の書斎に通され、静はさっそくに扇風機事件の話に入った。豊からいくつかの“宿題”を出されている。“冷たいカルテ”への追求で老医は警戒するかもしれないと考えていたが、杞憂だった。彼自身、真実を知りたいのだろう。何でも答えてくれた。T家の主人が死んでいた現場写真はやはり撮っていなかった。

 「扇風機は遺体とどのくらいの距離がありましたか」
 「そう、あれは・・・・」
 医師は現場を思い起こしながら、書斎を見渡した。
 「机とあそこの萩焼くらいの距離でしたね」
 それは2メートル半ほどで、扇風機を使うごくありふれた距離である。
 「電気はついていましたか」
 「電気? どこの」
 「現場、つまり応接間の部屋の電気です」
 「さて、それは・・・・」
 医師は首を傾げた。
 「部屋の窓もカーテンも開けられていましたが、電気がついていたかどうかは・・・・」
 「記憶にありませんか」
 記憶というより、医師はそこまで観察していないのである。まず診察だったのだろう。

 「ところで、ビール缶には睡眠薬は入っていませんでしたか」
 「睡眠薬ですか、さて・・・・」
 ふたたび、医師は首を傾げた。
 「入っていないと思いますよ」
 「思うというのは、検査に出していないということですね」
 「そうです。あのときは検査の必要性を感じなかったものですから」
 医師はT家の主人の死に、基本的には不審を抱いていないのである。

 「そうだったのでしょうね。ところで、扇風機に吹かれて人は死ぬものですか」
 自らも医師である静にとって、この質問の答えはわかりきっているものではあったが、これは豊の疑問である。
 「えっ」
 医師は少し虚を衝かれた様子だった。しかしそれは束の間の動揺だった。
 「死にます。連続的に強風にさらされれば低体温をきたし、循環器障害から心停止に至るでしょう」
 「誰にでも起こる可能性がありますか」
 「あります」
 「扇風機にあたって風邪をひいたという話はよく聞きますが、死んだ話は聞きませんが」
 「それは、健康な、それも大人なら普通目を覚ますからです」
 「T氏の場合、過労と飲酒と持病が不幸を招いたのですね」
 「そう考えるのが適当です。よほど熟睡していたのでしょう。死亡時の格好を見ると、扇風機を止める気持ちはなかったと考えられます。ぐっすり眠って災禍に遭っています」
 「不自然なところはありませんね」
 「ええ、まあ・・・・」
 めずらしく、医師は曖昧だった。
 「何かありましたか」

 「あったというほどのことではないかもしれませんが、」
 医師はそう言って、いったん言葉を切った。





                          次回は●水は曲者だから●
                          ──弟の言葉です。



 本日の日記------------------------------------------------

 DVDを手動ではなく見ています(笑)。
 実は私、“気管支炎”と診断されまして、もうすでに直りつつあるのですが今週末は静養と銘打ってDVD鑑賞を決め込むことにしました。手動を脱したことを記念して、オットが親の仇のように借りてきたDVD“LOST”、マジ面白い! アメリカの連続TVドラマなので、DVDを何枚も借りてこなければならないのですが、本日中に発売されているものを全部見るつもりです! 先程ポップコーンを作り、コーラも用意しました。
 “LOST”──皆さまにもぜひおススメさせていただきます。

 さてさて。
 戦友(←なんのだ)『さくら剛さんのご本が出版されました!』 インドなんて二度と行くか!ボケ!!

 この方と私の不思議なご縁については、ブログで公開できないほどのコアなものであるだけに、以前ご希望の方に私書箱メールのやり取りのみにてお話しさせていただいたことがあります(「聞いてないぞ!」という方はどうぞ私書箱メールにその旨お知らせください。後ほど返信させていただきます☆)。

 はじめのいきさつとしては、小夜子の出版化が決まった折くらいから剛さんがアルファポリスに作品を公開し始め、あっという間に人気投票を終了され、これまたあっという間に出版化が決定されたというわけです。
 剛さんの作品はジャンルでいえば「旅行記」ですので、夏休み前に日本全国の皆さまが旅行予定を決める時期までに出版を完了させることが急務でありました。それゆえに、剛さんの出版が早まることになり、限られた期間の中で相当な激務をこなされたと私は拝察しております。

 旅は道連れと言いますが、私にとってこの方の出現は僥倖以外の何ものでもありませんでした。
 心からの感謝を込めて、しばらくの期間、剛さんの本へのリンクを貼らせていただきます。

 本のトータルな紹介はこちら
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 (↑ごめん作者さん。これ、笑いすぎて死んだ。泣き笑いだったけど)

 リスキーなタイトル、リスキーなフレーズが目に飛び込んできますが(笑)、その人柄は小夜子から見て非常に魅力的な方です。
 小夜子の出版日記と読み比べていただけると、より出版の実情が浮き彫りになって最っ高にオモロイと思います。「おぬしたちもタイヘンだったのう~」という神様視点を味わいたい方は、ぜひ。


 次回更新は7月4日(火)。現在取り組んでいる『著者のサイン』の締め切り日です。サイン──最近はすっごい合理的な方法でサイン本って作られているんです! その舞台裏について。お楽しみに!


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最終更新日  2006年07月03日 10時13分39秒
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