今日からボスは夏休み
今日からボスは夏休み。これから向こう3週間はボスと会えなくなるのは寂しい。ボスは20年前にコロンビアから移民した先生。情熱のラテン人で、めっぽう情に厚い。微に入り細に入り、手伝ってくれたお陰で、快適なスウェーデンライフをおくれている。6月1日にIDカードを獲得しに銀行へ行った。こちらは国民登録時にもらう登録ナンバーをもとにIDカードの発行がされる。便利な日常生活を送る上で必須のアイテムである。たとえば、IDカードがなければ、町中のショッピングでクレジットカードを用いるときにパスポートを求められることが、この国は多い。GOLDだってダイナースだって、信用性に意味を持たない。IDが入手できれば、国内ではいろんな局面でパスポートを持ち歩かなくてもよくなるのだ。しかし、それをゲットするハードルはなかなか高い。まず、用意する書類が、税務署から送られてきた国民登録ナンバーとさらに出生証明書(persion belvis)。この二つは題名こそ違うが、中身はほとんど一緒。なんで2種類必要なのか理解に苦しむが、ともかく必要。さらに、写真。それらを用意して、最寄りの銀行あるいは郵便局でIDを作成してもらうのだが、さらには既にIDカードを持っている人に保証人として付き添ってきてもらわなくてはならない。つまり、この国自体が信用の置ける人間しか、入れないように敷居を高くしている。一見さんお断りの老舗の料亭みたいなもんだ。後見人がスウェーデン人かどうか、後見人が積極的に後押ししてくれるかどうかで、役所の担当官の仕事ぶりがかなり変わる。実は一週間前に、手続きを確認し、付き添いがいるか電話確認をボスがしてくれたところ、不要と言われた。しかし、行ってみると保証人の付き添いは必須で、IDを作れなかったのである。担当者によっては実に生半可な返事をするやつがいるのがスウェーデンである。そこで、ボスに付き添いをお願いした。前回、ボスが付き添えば必ず、IDを作ると約束させていたのだ。閉店間際にSWED Bankにとびこんだんだが、何と、今度はボスがSWED BankでつくったIDでないのでボスは正式な保証人にはなれないと、断られる。正式にはボスのつきそいならばNordic Bankまたは郵便局でしか作れないという。まさに、驚きだ。しかし、この銀行がカロリンスカと提供していたためか、融通を利かせてくれることとなった。ところが、今度は写真がだめだしをくらった。写真館の写真が高価なことや自動写真機が見つけれなかったため、実はけちって、自作の写真を作っていったのだが、背景が白くなく、解像度も悪い。おまけに、少し前までは耳が写るように斜め前方からとる規定だったのが、正面に変わっていた。これは慌てた。スウェーデンは必ず時間きっかりに仕事を終える。その点では客に融通など効かせることはまれである。銀行員が近くの駅に写真機があるというので、ボスが駅まで走れっと突如ダッシュ。妻は賢く、店員に店内で待たしてもらう許可をとった。店内に家族がおれば、店は6時きっかりには我々を閉め出せない。ボスがYour wife is clever. と褒めた意味が後で分かった。 写真機は50Kr(1000円)だが、そのコインがない。ボスが自腹で両替を駅員に頼むが断られ(駅員が融通など効かせるはずもない)、通行人に頼んでコインを作り、即座に写真機に放り込んだ。放り込むやいなや大声で「座れ!!」と言われた瞬間、ポーズをとる暇もなくフラッシュ。こちらの写真機はコインを入れた瞬間から自動でとり始めるのだった。慌てて顔を正面に向けると2枚目がバシャ。「もっと顔をちかづけて」ボスが叫ぶ。バシャ。3枚目が終わる。やにわに眼鏡をボスにもぎ取られ、「あらゆる場合に備えて素顔もだ~」バシャ。4枚目はあまりの騒動におかしくて,かなりにやけた素顔になってしまった。 乾かすまもなく、写真を持参。もう閉店の6時は過ぎていたが、妻がいたためか、あけてくれた。一枚目はこけそうになった下向き顔。二枚目は分けもわからず惚けた顔。3枚目は吹き出した顔。4枚目は吹き出した素顔。めでたく2枚目が採用され、銀行員が2, 3週後にはIDが発行されると言ってくれた。ボスが言うには担当官はスウェーデンにしては親切なやつだった。You are lucky. と言われたのは意外だったが、そうなんだろう。彼は確かに融通を利かせてくれた。ボス曰く、彼が意地悪なのではなく、法律に正式に乗っ取れば意地悪にならざる得ない。彼は保証人の原則を曲げてるよう交渉してくれたし、時間もオーバーしてくれたということは好意的だったというのだ。彼自身カロリンスカの経済学部の夜学に通っているためかもしれない。 他の日本人研究者は国民登録表が1月たっても1年経ってもこないとか、IDはついに作れなかったという話は珍しくない。われわれは二度も通わされることが多く、日本に比べて不満を感じるのだが、住民登録は1週間で到着。IDもこれで確実。ボスには非常にうまくいっている方だと慰められた。これもボスの積極的な後ろ盾があってこそだとも思う。 でも、妻のIDカードは同時に手続きには入れず、私のIDカードが届いた後に、私が保証人となり彼女に付き添って、同じ手続きをしなければならないとのことだった。だから、少なくとも2, 3週後に同じことをしなくてはならない。だいたいわかったから、今度はスムースにやれると思うけど、何とかならないのかね。この不便さは。入ってしまえば自由、便利この上ない社会なのだが、入るまでが、ホント、大変。