スットコ・テケ・ツク・テケ・トン・シャン・テン・テン・ツク・ポン・テケ・シャン・テン・トコ・テン・テケ・ツク・ポン・シャン
夏祭り
はい、ようこそのお運びで、ありがとうございます。
夏ともなりますと、お祭りでございますな。
只今でもあちこちの町内では、提灯飾りを始めたり、
お囃子(はやし)の方は録音テープですな、最近は・・
まァ、そんな雰囲気がただよってまいりますが、
江戸の庶民は、祭り囃子(ばやし)を稽古する音が聞こえてくるってぇと、
もう、居ても立ってもいられなくなっちゃう。
留 「おゥ、今年の祭りは、町内の連中をアッといわせるような趣向でやらねぇか?」
定 「おもしれぇ。どうやる?」
留 「そうさなァ、仲間ァ10人ぐれぇ集めて、背中に龍の彫り物を彫るってなァ、どうだ」
定 「背中に龍か?」
留 「そうよ。祭りの時にゃァ、みんな下帯姿になって、後ろ向きに、横一列に並ぶんだ。
するってぇと、一匹の龍が火ィ吹いてる彫り物が現れるってぇ趣向だ」
・・なんていたずらを、よくしたもんだそうでして、
全員揃うと、そりァ格好いいもんでしょうが、
龍の頭とか尻尾の男が、銭湯へでも行っちまって欠けると、
どうもサマにならない・・。
江戸を代表する祭りと云いますと、
山王権現(日枝神社)の「山王祭」と、神田明神の「神田祭」がございます。
「天下祭」とも云われたそうでして、
祭りの行列が、江戸城内に練り入ることが許されまして、
将軍や大奥のお女中たちもご覧になったそうで。
六月の山王祭の方は、
大きな獅子頭を先頭に、「一ノ宮」から「三ノ宮」までの神輿(みこし)が続きまして、
その後を、各町内から見事な「山車」(だし)が四十六台も続くという、
まことに豪勢な行列でございますが、
九月の神田祭も負けじと、「山車」は三十六台もくり出されたそうで。
町名主 「さてと、きょう皆様に集まっていただいたのは他でもない。
夏祭りの山車のことですがな。何ぶん、うちの町内は貧乏所帯ばかりだ。
だが、他所に負けない山車を作らないと、みっともなくていけない。
去年は、代々伝わった山車を廃品に出しちまったんで、
町中のガラクタを集めて、山車らしいものを作って、出てみたはいいが、
ありァ、ひどかったねぇ。あんまりみっともないんで、直ぐ引っ込めちゃって、
みんなで銭湯に行っちまったもんなァ」
権衛門 「そうだったよなァ・・。みんなで肩身の狭い思いをしたぜ」
どじ平 「だけど、今年だって予算なんて無ェんだろ?」
町名主 「ぇ〜、そこで、御相談というわけなんだが、・・」
無駄助 「おッと待ったァ。金なら無ェよ」
町名主 「そんな気遣いなら心配無用だ。お前さんたちから徴集できるなぞ、
端(はな)から期待ちゃァいない」
権兵衛 「じゃあ、どおする・・?」
町名主 「だから、御相談だ・・」
どじ平 「誰か身内で、役所に務めているもんは居ねぇか?」
権衛門 「居たら、どうなんだ?」
どじ平 「しーっ、ここだけの話だがな。居たら、役所の金を流用させる」
無駄助 「おッと待ったァ。それじゃァ、泥ボーじゃねぇか」
どじ平 「しーっ、だから、ここだけの話だ。だが、いいか、よおく世間を見回して見ろ。
年金資金の流用なんか見ろよ。うまァく盗ってるぜ。それで通っちまうのが昨今だ」
権衛門 「ありゃァ、うやむやになっちゃうんかねぇ」
町名主 「おいおい、泥ボーの話じゃなくて、もっとパーッと威勢のいい案は無いのかねぇ」
無駄助 「そりァ、いい案がパーッと出て来るような頭ァ持ってりゃ、こんな貧乏してねぇ・・」
どじ平 「ベラボーめ。江戸っ子が、そんな情けねぇこと云ってちゃ、いけねぇナ。
金も頭もなかったら、体を使やァいいんだ」
町名主 「ほう、体をねぇ。・・で、どう使うんだい?」
どじ平 「みんなで下帯一丁になって、ピラミッドを作ってだナ、“人間山車”と洒落込むんだ」
無駄助 「金も頭もいらねぇなら、おいらに任せろ」
権衛門 「あたしゃ歳だから、団扇(うちわ)で扇ぐ役にしてくれ」
どじ平 「見せ場ァ、これからだ。いいか、祭りのクライマックスになったらだナ、
“人間山車”は一斉に大声で吠える」
無駄助 「なーるほど・・、どう吠えるんだ？」
どじ平 「こうだ。いいか、・・ワンワン、キャンキャン・・」
おたいくつさまで・・
