響~ディープハーモニー~(VS 金の斧 銀の斧)
しまった。
大事な商売道具である斧を湖に落としてしまったぞ。
安物の鉄の斧だが、大事な商売道具だし、あれがなきゃ今日の仕事はおしまいだ。
こんにちは。
途方に暮れているキコリ(下人)の話をお届けします。キォスクです。
と、その時だ。
下人の前で、水面が七色に光り輝き、音もなく一人の美しい女性が現れた。
その女性は両腕に「金」「銀」「鉄」、三つの斧を抱えている。
・・・斧を三つも抱えられる彼女の腕力にまず驚きなのだが、金の重量を知っている者なら「その金の斧、メッキじゃないの?」と思ってしまうところだ。
そんな下人の微妙な反応は華麗に無視し、彼女は一方的に告げる。
「あなたの落とした斧は、この鉄の斧ですか、銀の斧ですか、それとも金の斧ですか?」
下人の攻撃。
「・・・鉄の斧から聞いてくる、その意図は何ですか?」
クレーマーの秘技「質問返し」が炸裂だ。
「え? いや、あの、深い意味はないですが」
「私の質問も深い意味は無いです」
「!?」
投げた質問を勝手にクローズしてみた。
続けざまに追い討ちをかけてみる。
「そもそもあんたは誰なんだ。名乗れ」
「え? あっ。失礼しました。私、この湖の守り神です」
「マモ・リガミさんですね? いや、マ・モリガミさんですか?」
「い、いえ、それは名前じゃなく・・・」
「名乗れと言われて答えたのが名前じゃないとか意味不明ですね。私はキ・コリです。キコ・リでも、お好きな方でお呼びください」
「・・・・・・。え、えっと、それで、あなたの斧はどれでしょう」
「どれだと思います?」
「ええ!? ・・・わ、私が分からないので質問しているのですが・・・」
「落として2秒で水中から上がってきたあなたに分からないんですか。釈然としないですが、ま、いいでしょう」
「あああの、それで、質問に答えていただけますでしょうか」
下人はニヤリと笑う。
「その質問に私が答えねばならない理由がどこに?」
困った彼女はしばし無言になった。目を白黒させている。
「いえ、その、特に答えていただかないといけない理由はない・・・です。ではこれをお返しします」
そう言っておずおずと鉄の斧を差し出してきた。
「ちょっとちょっと! マモさん、なんで鉄の斧を渡してくるの? これが私の斧だって誰が決めたの?」
「ひぃ?!」
「あなた言いましたよね? どの斧が私のだか分からないって確かに言いましたよね? だから会って早々、ぶつしけに聞いてきたんですよね」
「あっ、あっ、あのっ、わ、私これで失礼します!」
逃げようとする彼女に間髪入れず突っ込む。
「あれ!? 守り神様が人のモノかっぱらってトンヅラですか! うっわー、信じられない!」
「ええぇ?! そんなっ」
急に「守り神」扱いされて、もはや泣き出しそうな彼女。
話が進まないので答えてやることにした。
「冗談ですよ。私の斧はその金の斧です」
「・・・え・・・」
弾かれたように真顔で下人を見上げる守り神。
なんですか? そのツラは。
「私のは、そのゴォールドの斧です。返してもらっていいですか?」
「・・・・・・」
今、ちょっと不満そうな表情に見えたが下人の勘違いかな。
「ホラ、早く」
「わ・・・分かりました。では、これを・・・」
そう言って おずおずと金の斧を差し出してくる守り神。
ズシリと重い。
よしよし、メッキじゃないっぽい。
「で、ではこれで失礼します・・・」
そそくさと去ろうとする彼女に下人は構わず続けた。
「待ってくださいよ。その銀の斧も私のですが」
「ええええ!?」
目をひんむいて驚く彼女。
「あれ? 私の落とした斧が一本だったなんて言ってないですよね、お互い」
「いいいいい?!」
「金の斧を落とす直前に 銀の斧も落としたんですよ。ま、面倒なんで言っちゃいますけど、三本とも私のです。三本落としちゃったんですよ」
彼女の顔が若干赤くなり、怒りに眉を寄せたように見えた。
「あ、ああ、あなたは嘘つきです!三本なんて落としてません!」
「ほう。何故そうだと分かるんですか。知っていて聞いたんですか? 分からないと言ったのは嘘ですか? 人を嘘つきよばわりしておいて、実はあなたが嘘つきだったというわけですか?」
「いい いや、あの、その・・・!」
「二本が私の斧じゃないという証明、三本落としていないということを証明してください。ま、証明出来たら、どれが私の斧か分からないと言ったあなたの嘘が証明できるわけですが。ケケケ」
守り神様が、「ふぐぐっ」と唸ってよろめく。
ダメ押しの攻撃。
「他にも落としちゃったものがあるんです」
「ああああ??・・・何ですってぇぇぇ?!」
白目をむきそうな女神の両肩にポンと手を置き、下人は言った。
「私、守り神さんを落としちゃいました」
「はい!? え? ええぇ!?守り神?? わたし?!」
「落としちゃったのに自ら這い出て来るとは貞子級にビックリですね。では遠慮なく持ち帰らせていただきますよ」
そう言うやいなや、下人は女神の腕をむんずと掴むと強引に陸へ引き上げた。
「キャーッ!! おお お助け~!!」
「心配はいりません、裕福な生活を約束しますよ。(お前の、金と銀の斧を売りさばいてなぁ!)」
・・・こうして下人は時価総額7千万円のゴールドとシルバー、若くてベッピンな女神を手に入れ、あと どうでもいい錆びた鉄の斧を回収し、以後5年くらいは豪遊を続けましたとさ。
げに恐ろしきは、世の中のドキュンクレーマーを何千回と対応してきた担当者(下人)がクレーマーになったときだよな、と思う今日このごろ。
ま、本気でサービス業やってた奴は、意外とクソみたいなクレーマーにはならないものだ。「俺もサービス業 長いことやってっけどなぁ!」なんてドスのきいた声で威圧してくる輩は、百歩譲って本当にやっていたとしても、そいつ自身がしょーもない従業員だったことだろう。
品のない言い方や態度でバレバレだ。
と、本音を吐いてみた。
さて、そんなこんなで今宵お届けする酒情報は。
【響 DEEP HARMONY】
響17年がベース。赤ワインの空樽で十分に熟成された「白州モルト原酒」に、シェリー樽で超長期熟成された「知多グレーン原酒」をブレンドしている。どのような香味なのか。
【カラー】
美しく淡い琥珀。透かして見える情景は古き良き時代の映画のように。
【アロマ】
濃いブドウの果実紅茶を優雅にいただく婦人。ハチミツやバニラを添えて。甘い香りが辺りを包む。
【テイスト】
口に広がる甘い香りは期待を裏切らず。葡萄の酸味と苦味をエステルのチクリとくる刺激で見事に融合し、樽香で包み込む。難しく、複雑で、しかしそれらがハーモニーの名に相応しくまとめあげられている。
【フィニッシュ】
濃さが不思議なほどキレに変わり、洗練されたアロマの虹となって鼻に抜ける。余韻は雨上がりの虹とともに長く続く。
2013年、BAR業店向けに数量限定で発売され、現在ではすでに終売となっている。下人の記憶が正しければ限定3,000本だったはずだ。
今でも地方のBARの片隅で奇跡的に眠っていることもあるようだが、絶滅寸前であることは間違いない。
発売から約3年の2016年6月現在、オークションでチラホラと見かけることがある。相場は4~6万円くらいだろうか。
ベースはあくまで17年なので残存数と関係なくこのまま落ち着くこともあれば、消費者の評価がかなり高かったようなので残存数の減少とともに更に上昇する可能性もある。
すでに店では品切れ状態。BARを探し歩くかオークションしかない。今の価格で買うは、是か非か。
今宵の皆さまの一杯も、
素敵な時間でありますように
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