爆裂天使 百合SS 後編
その日の夜。ジョウはベッドに入るとすぐに寝てしまった。メグもほぼ同時にベッドに入ったが、なかなか寝付けずにいた。メグは考え事をしていた。ジョウと初めて逢ったときのことを、思い出していた。――始めは…怪しい奴だと思った…ニューヨークで、チャーリーやシャーリー、ドロシー、3人の孤児達と暮らしていた頃、急にシャーリーが拾って来たジョウ。傷だらけで…服もボロボロ、まるで野良猫のようだった。しかも、何を考えているか解らない…不思議なオーラの持ち主だった為、当時のメグにとってジョウは、不審人物以外の何者でもなかった。だけど一緒に行動し、共に困難を乗り越えて行く内に、仲間意識が生まれ、自然と信頼関係が築かれて行った。――ほんと…いつの間にか、自然に仲間になってたんだよね… そして何時しかパートナーへ――シャーリー達がサムに引き取られた後、メグにはジョウだけが残った。今までずっと家族同然に接して来たシャーリー達と別れるのは少し切ない気もしたが…メグはこのまま自分がシャーリー達の側にいるのはあまり良くないと感じていた。まともな仕事も出来ない子供の自分より、警察官と言う立派な職業のサムの方が、シャーリー達を幸せに出来ると思った。だからメグは、何も言わずに3人をサムに任すことが出来たのだ。それから、新たな生き甲斐を見つけた。それがジョウだった。――こいつはあたしが守ってやらなきゃ…当時のメグにとってジョウは、そんな保護欲を掻き立てられる存在だった。常識知らずで、まるで野生児のような…男の子のような…それでいて少女の儚さや弱さも覗かせる。そんな彼女から、メグは目が離せなかった。ただ保護者として。あの時までは――シャーリーの誕生日を祝う為、プレゼントを持ってサムを訪ねた時。シャーリーが連続殺人鬼に襲われたと聞かされて、その小さな体が…ズタズタになって、病院の集中治療室で苦しそうに息をしている姿を見て…メグは身が切り裂かれる想いだった。どうすればいいか判らず、泣き崩れていたメグに、『シャーリーの仇を討とう。』そう言ってくれたジョウはとても頼もしく感じた。無口で無愛想だけど、いつも傍に居て、心まで寄り添ってくれている――その時、メグは心が温かく満たされて行くのを感じた。そして…メグのジョウを見る目が、180度変わってしまう出来事。シャーリーの仇との戦いの最中、ジョウはビルの屋上から敵に叩き落とされてしまう。ジョウを失い絶望したメグは、仇に殺されるくらいならと、自殺を選択しようとした、その時。『メグ…!!』何処からか自分を呼ぶ声。メグは、声のする方を見た。そこには…死んだと思っていたジョウの姿があった。『シャーリーの仇を取るまで、諦めるな!!』ジョウのその言葉は、メグを奮い立たせた。力強く、立ち上がる勇気をくれるような…そんな声だった。――銃なんてロクに使ったことのなかったあたしが、ちゃんと敵に命中させることができたのは…ジョウが背中を押してくれたからだ…あの時…ジョウが居てくれなかったら…あたしは今、生きてない――メグは、隣のベッドで寝ているジョウを見つめた。ジョウに救われたあの時から、メグは、ジョウだけを見つめている。他の誰も、目に入らないくらいに。ただ…一人だけを。こんなことは初めてだった。いつだって気になって、ただ傍に居るだけで幸せで、触れると熱くなってドキドキする。――これって一体何…?今だって…こんなに近くにいるのに、もっと近づきたい……経験したことのない感情に戸惑うメグ。「…ジョウ……」メグは、ジョウのベッドへ入り込んだ。「…!?」「はっ!あたしってば何を?!…???」自分の行動に驚くメグ。本当に無意識だった…シャンプーの香りがした。ジョウも同じシャンプーを使っているのに、とても良い香りに思えた。同じベッド…触れ合う程の距離。ジョウの体温を感じて、メグの身体が熱くなる。「すぅ…はぁ…」暗闇のせいで、耳がよく聴こえる。そのせいか、ジョウの寝息がやけに色っぽい。――ジョウってこんなに色っぽかったっけ…?メグはとろんとした目で、ジョウを見ている。「…んんっ……」「!?」ジョウが寝返りをうち、その拍子に片手でメグを抱いた。突然のことにメグは動揺している。――どどっ…どうしよう…!?ジョウの寝息が顔にかかり、メグはパニックに。「~~~~~~~~~っっ!!」言葉にならない叫び。気持ちが良いのか苦しいのか…わけの解らない、感じたことのない感覚に襲われ、身もだえていると…ふにっ――「?!……」く ち び る に…と て つ も な く や わ ら かい も の が・・・・目の前にはジョウの顔…メグは数秒間、何が起こったのか理解出来なかった。気づいた時には、もうジョウの唇は離れていた。「あ、あたしのファーストキス……」メグは硬直し、頭が真っ白になり、そのまま明け方まで眠れなかった。☆翌日、メグが目覚めると、そこにはジョウの姿はなかった。メグは慌てて部屋中探したが、見つからない。時計を見ると、午前10時。「もうこんな時間かー…」「ジョウ、どこ行っちゃったのかな…」落ち着かないメグは、ジョウを探しに部屋を出て、デッキに向かうと…――いた「ジョウ~!!」「!?」「もう!心配したよ!?」「すまん。」「何してたの?」「別に…何も。」メグはいきなり、プッ、と吹き出し笑い出した。それをジョウが不思議そうに見つめる。「あははははッ!ジョウってホント変わってるよねっ」メグは腹を抱えて笑っている。「そうか。」ジョウはよくわからないと言った表情だ。「あはははッ!…はあ……お腹痛~い…」「笑い過ぎだ。」メグが笑い過ぎで涙を流している姿を見て、ジョウもつられて少し笑った。その笑顔があまりに可愛くて、メグはドキッ、とした。その拍子に昨日のキスを思い出した。――あれは…事故だよね。女同士だし…ジョウは寝てたし……急に静かになり、頬を赤らめて俯くメグ。「どうした?」メグの百面相には慣れているが、いつもとは明らかに違う雰囲気に気づいたジョウ。「へ?……あー、なんでもないよ。なんでも…」なんでもないわけがないが、誰にでも知られたくないことはある――そう思ったジョウはこれ以上詮索するのは止めて、海を眺めた。メグは、そっとジョウの手を握った。ジョウの手は冷たくて、柔らかかった。とても…普段あんなに重い銃を握っているとは、思えない程…。――女の子の手…ジョウは女の子なのに、どうしてこんなにドキドキするのかな?この気持ちは一体……何?――メグのこの…ジョウへの想いは一体何なのか…友情?それとも憧れ?…それとも――今のメグには判るはずもなかった。なぜなら…メグのこの想いは、まだ芽を出したばかりだから。「ねぇ、ジョウ?」メグはジョウの腕に抱き着き、甘く囁くような声を出した。初めて聞くメグの声に、ジョウは惑いつつも答える。「なんだ?」「……だいすき…」メグの声は小さくて、風に掻き消されてしまった。「ん?どうした?」「なんでもない…ずっと…傍にいてね?」頬をピンク色に染め、少し俯いたその顔に、ジョウは少し呆気に取られたような顔をしたが、すぐ元に戻り、優しく答えた。「ああ。」ジョウの返答に、メグは万遍の笑みを見せた。太陽のようなその笑顔に、ジョウもつられて微笑んだ。――ジョウと一緒なら、何も怖くない。どこへだって行ける。メグのその確信は、より強いものとなった。