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カテゴリ:迷える羊の幸恵さんの巻 (完結済)
C国Q市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるGOGO団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。 GOGO花園って何?って方は、第一回のコチラから この章をはじめから読むにはココ ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○● 迷える羊の幸恵さんの巻 (2)嘘も方便?(後編) とはいっても、幸恵の場合、トップの記事を読んだあと、総合面で興味のあるものだけをつまんで、国際情報と経済はちらっと見る程度、株式情報とスポーツ欄をのところをすっ飛ばして、社会と家庭欄を読み込み、仕上げに最後のページの連載小説や、「私の履歴書」を楽しみにしていた。まあ、これだけでも日本で、大体何が起こっているかはわかる。さらに、下のほうにある週刊誌の広告も面白いので拾って読んででいると、日本に住んでいたときよりいろいろな事情に詳しくなったくらいだ。 千葉の実家で一人暮らしの母に10日にいっぺんぐらい入れる電話で、なんとなく話すことがなくなって、「そういえば、芸能人のダレダレが離婚したんだってねえ」などと話すと。「あなたは外国に住んでるはずなのに、私なんかよりずっと詳しいのね」などといわれてしまう。 ふと顔を上げると、夫がこっちを見ていた。 「幸恵、お前、まどかが座ってたところに移って読んだほうが明るいんじゃないの?」 秋元家は間取りの都合でちょっと薄暗い。でも、さっきまでいたまどかが座っていたところは、真後ろに小さい窓があるので、新聞を読むには確かに適してる。 「ありがとう、でも急になんで。」 結婚8年目の夫は、まあやさしいほうだとは思うが、普段からそんなところにまで気を配ってくれる人ではない。 「だって、お前、老眼来てるんだろ。」 「ろうがん?」 なにいってるのこの人、わたしはまだ35になったばかりで若いのよ。6歳年上のそっちが先にそおいう心配するんじゃないの?。幸恵が言い返そうとすると、亨がつづけて、 「お前、今年いくつよ。俺より6つ下だからまだ35だろ、そんで老眼なんて来ちゃっていいの?近視のない目のいい人は老眼になるの早いって言うけど、まだいくらなんでも早くないか?眼科とかに行ってみてもらったほうがいいんじゃない?酒井さんも言ってたよ。」 酒井?ああ、夫の上司の酒井さんのことか。それで話が見えた。 「ああ、それ、ごめん嘘だわ。」 「うそ?」 「うん、この前また酒井さんの奥さんにビーズ細工おやりにならないって誘われてさあ。これで3回目だから、もうはっきり断らなくちゃいけないと思って、とっさに、最近細かいものがよく見えないので、ビーズなんてやったらもっと視力が落ちそうなのでやめておきますって断ったの。」 「何で、そんな嘘つくかねえ。」 「だって、もうこれ以上誘われない断りかたしたかったんだもん。咄嗟にそれぐらいしか思いつかなかったのよ。ごめん口裏合わせといて。」 「そんな。嘘はよくないよ。そんな思いつきで口からでまかせこいて、つじつま合わせるのはこっちなんだよ。どっかでボロ出たりして。厭だなあ。」 夫はぶつくさ言いながら、その酒井さんと乗り合わせる車に遅れてはいけないので出社して行った。幸恵は、お茶を入れ替えて夫の読んでいた三面記事を引き寄せて読み出した。たいした事件がなかったようで、つまらない。新聞から顔を上げたら、キッチンのガラス張りの棚に入っているのビーズ細工のナプキンホルダーが目に付いた。夫の上司の酒井支店長の妻にもらったものだ。 「嘘も方便って言うか、もう仕方なかったんだもん。」 幸恵はため息混じりにつぶやいた。 (つづく) ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年04月03日 08時24分41秒
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