688567 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ぺ天使のつぶやき

ぺ天使のつぶやき

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2010年01月12日
XML
カテゴリ:医療ネタ
 昔のネタが割と好評だったので、原稿の気分転換に、また書いてみようと思うです。

 社会死、という言葉をご存知でしょうか。
 明らかに死んでるよね、この人……と思われる場合の人の死をさす言葉です。
 というのも、『死』というのは、医師が死亡宣告をしないことには成立しないんですね。
 だから、腐乱していようが、白骨化していようが、医師が死亡宣告をしない限り、その人(?)はまだ生きている状態、ということになります。

 まぁ、腐乱とか白骨とかを見つけて救急車を呼ぶ人はまずいないと思いますが、中には「この状況で救急車を呼ばれても……」な場合もあります。
 今回はその話をしましょう。

 ここで警告です。

 今回のネタはちょっとアレなので、グロい話とか苦手な方は読まない方が良いかもですよ。

 いいですね、警告はしましたよ?



 私が夜勤専属で働いていた病院は、二次救急を積極的に受け入れている病院でした。
 救急には一次と二次と三次の3つあります。

 TVでやってる『救急病棟密着24時』みたいなドキュメンタリーが三次救急です。
 手術室は24時間フル稼働、医師も看護師も専門のスタッフがそれなりの人数揃えてあって、場合によっては、頭・胸・腹部の手術を同時にやれるという、人命救助のエキスパートな部門です。

 一次は、特に『救急』とは呼ばれません。
 腹が痛いです、指切りました、などで入院の必要はないけれど、早めに対応した方がいいよね的な外来をいいます。

 二次救急は一次と兼任していることが多いのですが、階段から落ちて骨が折れたみたいです、急性アル中で意識レベル低いです、な、入院が必要な患者さんを受け入れます。
 もっとも、同じ骨折でも、皮膚からばっきょり骨が突き出してます(開放骨折といいます)な骨折だった場合、特別な処置が必要になるし、場合によっては切断することもあるので、三次救急へ行ってもらいます。

 けれど、重傷(重症)者を全て三次救急で対応するのかというとそうではありません。
 人命救助のエキスパートが揃っていても、助けられない命もあります。
 たとえば、既に現場で心肺停止していて、相当時間が経っていたと思われる場合、無理に蘇生をして、再び心臓が動き出してしまっても、意識が戻ることは稀です。
 なので、家族のために、二次救急の病院に運び込まれます。

 また、三次救急対応患者さんでも、三次救急から断られる場合もあります。
 人も機材も揃ってる、手だって手術室だって開いてるし、その状況なら手術すれば助かるだろう、けれど、手術した後に寝かせておくためのベッドの空きがない場合、「満床です」の一言で断られます。
 同じく、少し前に受け入れた別の患者さんの処置中や手術中で、スタッフの手が足りない場合も断られます。

 三次救急はコストの割には採算が取れないし、訴訟も多ければトラブルも多いし、そもそも希望者(主にドクター)がいないので、「今はもうやってません」という病院も多いです。
 そうやって、三次救急に断られた患者さんが救急車の中で亡くなる、もしくは、やっと受け入れ先が見つかって病院に運ばれたのはいいけれど、時既に遅し、というのはニュースで何度もご覧になっていると思います。
 医療崩壊ってヤツですね。


 話を元に戻します。

 とある夜、勤務先の病院に救急隊から電話がかかってきました。
 電話を取るのは事務当直(バイト)の男の子です。
 その病院の近所の大学生が持ち回りで毎晩バイトにやってきます。

(「金がいい」ということで人気だったみたいですが、ひっきりなしに鳴る電話に眠ることもできず、暴れる患者に殴られ、運ばれた患者に吐瀉物を吐きかけられることと引き換えの金額だと知った子からどんどん辞めていきますが、他のバイトより金がいいので、空き待ちの学生がたくさんいたため、どんだけ止められても病院的には困っていなかったらしい)

 そのバイト君(男子学生限定だった)が救急隊からのコールを取り、診察室を仮眠室にしている看護師に処置中ではないかと聞いてきます。
 その病院は基本的に救急搬送依頼は断らない主義だったので、処置中でない限り受け入れます。
 で、こっちはこっちで準備があるので、どんな患者さんが来る予定なのか聞くのです。
 バイト君は言います。
「40代男性、CPA、頭部外傷、だそうです」

 CPAとは心肺停止のことです。
 頭部外傷、は、一般的には『とうぶがいしょう』と読むところですが、医療的には『ずぶがいしょう』と読みます。
 この病院に運び込まれてくる、ということは、ちょっとした手術で済むか、もしくは既に手遅れかの二者択一です。

 取り敢えず、当直室に電話を入れて寝ているはずのバイトのドクターをたたき起こし、レントゲン室にも連絡して技師さんを起こします。
 ここの病院の技師さんは、搬送依頼があればすぐに処置室に来て手伝ってくれるいい人でした。

 やがて救急車のサイレンが聞こえてくる……はずが、その日はサイレンが聞こえてこなかったそうです。
 寒いから救急車が来れば開ければいいと思っていた外への鉄製のドアがゴワンゴワンと音を立てます。
「これから救急車が来るってのに、誰か来たよ」
 軽口をたたきながらドアを開けると、そこにはその救急車がいたそうです。
「あ、すみません。先ほど連絡した○○救急ですけどぉ……」
「ああ、CPAの頭部外傷の患者さんですね。どうぞ~」
 救急車の後ろのドアが開いて、ストレッチャーが下ろされます。
 その時点で、ストレッチャーから血がボタボタ落ちてます。
 うわ、こりゃ助からんだろうな、とレントゲン技師さんは思ったそうです。

 処置室に運び込まれた『患者さん』を見て、事務当直の男の子は腰を抜かしました。
 なにせその『患者さん』、頭と胴体が文字通り首の皮一枚でつながっていただけですから。
 たしかにCPAですね、心臓も呼吸も止まってますから。
 でも、頭部外傷……なのかな、この状況?
 調べりゃ頭にも怪我はしてそうだけど、それ以前の問題じゃない?

 ネボケマナコのドクターが降りてきて、一階に充満した血の臭いに顔をゆがめます。
 で、『患者さん』を見て、おもむろに壁の時計を見ました。
「3時51分、ご臨終です」
 形ばかりに頭を下げて、ドクターはまた当直室へと上がっていきます。
 一応、レントゲンか何か撮っておきますか、と技師さんが聞いたところ、「必要ないだろ」と一言だけ返ってきたそうです。
「……あれで看護師の5倍以上の時給もらってるなんてズルイわよね」
 その日の夜勤担当看護師がボヤきます。
 消防の人も微妙な顔でしたが、ストレッチャーを救急車に戻さないことには帰れないので、取り敢えずそのご遺体を病院のストレッチャーに乗せることにしました。

 ストレッチャーの上に尿取りパッドのデカいやつを敷いてから、消防の人が呼吸を合わせて移動させてくれます。
 レントゲン技師さんが手伝おうとしたけれど、「首が取れるといけないので」とやんわり断られたそうです。

 続いて、看護師が診察室の床に新聞紙を敷き、その上にストレッチャーを移動させました。
 処置室は、次にやってくるかもしれない患者さんのためにあけておかなければなりませんから、どこかへ移動させる必要があるのです。
 あとで警察が引き取りに来るからといって、血の臭いがすごいからと外へ出すわけにもいかず、とりあえず、使っていない診察室に運ぶしかなかったのです。
 診察室は4つありましたが、壁を隔てているとはいえ、さすがに首がちぎれかけているご遺体の近くで寝る気にはなれない、と、その夜勤看護師はビビリまくっている事務当直のボーヤと事務室で警察が来るのを待っていたのだとか。

「いや~、大変だったんだよ~、朝になっても血の臭いが取れなくてさー!」
 その日の夕方、元気に出勤してきた私に、技師さんが笑いながら言います。
 私は夜勤の担当日が一日ずれていたことを心の底からホッとしました。

「でね、あの後、明け方くらいにポリ(警察の人)が来てくれたのはいいんだけどさ、とうとう首、取れちゃったんだよね」
「は?」
「首がもげそうだから注意してくださいね、って言ったってのに、ストレッチャーから移す時に、誰も首を支えなくてさ。血まみれのパッドの上に、首だけ残っちゃったの。床に落ちなかったのが救いっちゃ救いかな」
「文字通り、生首やねー」
「何かさ、それ見て思わず笑っちゃったんだよね。
 あまりにも現実味がなくてさ」
「あー、それわかるー。
 悲惨すぎると、笑いがこみ上げてくるんだよねー、何故か。
 不謹慎だってわかってんのにねー」

 技師さんの話はもうちょっと続きます。

「でね、ポリが『手術室貸してくれ(=検死もさせてくれ)』って言ってきたんだけどさ、婦長(先ほど記述した当直看護師は実は夜勤看護師がドタキャンした都合上、病棟婦長がやっていた。今では私たちは看護師と呼ばれるので師長というようになってるけど、当時は看護婦/婦長といっていた)、『今使用中です』ってウソついて、さっさとポリを追い返しちゃったんだよ」
「あー……手術室掃除すんのが嫌だったんだねー、婦長さん」
「処置室の掃除も、結局、事務当直の子にさせたんだよ、あの人。
 『アタシは病棟に上がって仕事があるから』って」
 処置室はタイル張りでホースで水を流せる仕様になっているのですが、腰を抜かした二十歳そこらの男の子に血だまりの掃除をやらせるのは気の毒です。
「あの子、マジ泣きしてて可哀想だったからさ、おれ、ストレッチャー拭くの手伝ってやったんだよ。
 あの婦長、ちょっと性格に問題アリだよね」

 性格に問題のない婦長さんにお目にかかった経験のない私は言葉を濁しました。

 その技師さんはいわゆる「よく当たる」技師さんで、その技師さんの当直日にはしょっちゅうイベントが起こっていた模様です。
 私がその病院に勤務していたのは半年ほどですが、「うわー」なことが起こった日は、やっぱりその技師さんがレントゲンの当直日でした(笑)。

 その「うわー」な内容は、また気が向いたら書こうと思います。

 というわけで、仕事に戻ります。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2010年01月12日 16時49分52秒
[医療ネタ] カテゴリの最新記事


PR

カレンダー

バックナンバー

2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月
2023年12月
2023年11月
2023年10月
2023年09月
2023年08月
2023年07月

© Rakuten Group, Inc.