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テーマ:お勧めの本(7275)
カテゴリ:読書
月曜日からまた公共機関をかけもちでまわる毎日、どうせ待たされる
だろうとあきらめて本を持って行くことにしました。周りの人の声や順番が やってきて中断されてもいいよう以前読んだ本で、なおかつ今の状況を 少しでも忘れられる強烈な印象の本、ということで「風の影」を選びました。 この小説の主人公は本です。1冊の本を中心に少年ダニエルは思いがけ ない出会いをしますし、本や言葉との関わりによって、登場人物の人生は 大きく変わってしまいます。そしてこの時代の本は紙や革でできているので それぞれ固有のにおいや手触り文字のリズムがある、電子書籍では絶対 こういう感触は味わえないだろうし、その中に魂を閉じ込めるのは無理だろう と思いました。 ダニエルは本を通じて知り合った年上の盲目の少女クララに夢中になり ます。声に出すからこそ自分が文字を追っていた時とはまた別のリズム を味わうことができるし、読んで聞かせる相手が盲目の少女と言うことで 独特の官能を知ります。まあ彼はいかにも少年らしい憧れをクララに抱き、 ひどいめにあうのですが・・・ 手痛い失敗をしたダニエルの前に現われるホームレスのフェルミンは秘密 警察に追われ、拷問を受けるというすさまじい過去を背負っています。でも そのユーモアセンスと本の知識、探究心はすばらしく、ダニエルの父の店 古本屋の店員(本人は書籍アドバイザーと言っている)として活躍します。 このフェルミンの助けを借りてダニエルは自分が見つけた本の秘密をさぐっ ていきます。 本と並んでキーワードになっているのが火です。火は本を燃やして滅ぼす だけでなく、人間を悪魔に変える力を持っています。火をつかった拷問によ りフェルミンは耐えきれずに仲間を裏切ってしまい、恋の炎は本の作者フリ アンの人生を大きく狂わせます。でも人間の心に炎のような情熱や情念が なければ本は生まれず必要とされないまま滅んでしまったかもしれません。 私はスペインと言う国に、強い太陽の光と乾いた大地をイメージするのです が、この物語の舞台となっているバルセロナは、そうした乾いた土地とはまた 別の湿り気やにおいがあるようです。そして街は内戦によって多くの人が 理由もわからずに連れて行かれ殺されたという血の記憶も持っています。 大切な人を失った悲しみや恐怖が消えずに残っている街、文字だけでこん なにも多くのことを表現できるのかと驚きました。 夢中になって読んでいたので、長い待ち時間もそんなに苦にならなかったし (正直携帯がなったり自分の名前が呼ばれても気づかないでいました)物語は 宗教と同じくらい強い力で人を救い人生を変えることもあるとあらためて思い ました。
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Last updated
2010年10月04日 21時27分57秒
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