物流拠点と包装のCO2 (11)
ロジスティクスの脱炭素化(CO2を3割に削減)では、年間1億トンのCO2を3千万トンに減らすことを2050年段階の長期目標とした。この1億トンとは貨物輸送から排出されるCO2である。 では、輸送以外のCO2は考えなくて良いのであろうか。 ロジスティクスの3大機能といえば、輸送、荷役・保管、包装である。荷役・保管では、倉庫や物流拠点の消費エネルギー・CO2排出がある。さらに荷役に使用されるフォークリフトやソーターなどの機器もかなりのエネルギーを使用しているはずである。 さらに包装、ひろく見ればパレットや通い箱のような物流容器もまた、多くの資源を利用している。段ボール、樹脂などの素材から包装容器を製造する過程で、CO2を排出しているはずである。リターナブル容器の場合は、その回収輸送でもエネルギーを使っている。●物流拠点のCO2排出量 統計的なデータはないが物流拠点からは、かなりのCO2を排出しているのではないかと考えている。ただ、貨物輸送の1億トンには含まれていない。物流業者の営業倉庫、荷主企業の物流倉庫や物流センターは、業務部門か産業部門の中で計上されているはずである。 今のところ、物流倉庫だけを取り出した原単位は手元には見当たらない。そこで、三菱倉庫のCSR報告書を見てみた。そこには、当社の倉庫のCO2排出原単位が記載されていた。CO2は電力の使用量に見合うものが大半と思われる。【三菱倉庫のCSR報告書より】 CO2排出原単位28.3kg-CO2/平方メートル 所管面積890千平方メートル CO2排出量 25.2千t-CO2/年 日本倉庫協会によれば、普通倉庫の延べ床面積は、合計37,274千平方メートルということである。野積み倉庫など屋外倉庫を除いた面積である。仮に、三菱倉庫のCO2原単位から28.3kg/平方メートルを使って計算すると、営業倉庫全体から排出されるCO2は104万トンと計算することが出来る。 冷蔵倉庫はどうだろうか。 同じく冷凍食品メーカーの環境報告書を参考に算出してみる。ニチレイの環境報告書および物流子会社、ニチレイ・ロジスティクスのデータによると、ニチレイグループの物流センターから排出されるCO2は年間130千トンである。同グループの冷蔵保管能力は約180万トン。であるので、冷蔵倉庫の能力1トン当たりのCO2原単位は72kg-CO2/トンとなる。 日本冷蔵倉庫協会によれば協会に登録されている冷蔵・冷凍倉庫の能力は約1,200万トンである。ニチレイの原単位から計算すれば、CO2排出量は86万トンとなる。 普通倉庫と冷蔵倉庫~いずれも営業倉庫~から排出されるCO2は200万トンとなる。貨物輸送の1億トンの2%である。比較するとかなり少ないように思われるが、協会に加盟していない倉庫業者があるなど、漏れがあるのかもしれない。 この数値はあくまで、営業倉庫の分である。メーカー、卸、小売業などが自社で有する倉庫やセンターは含まれていない。自営倉庫のCO2排出量を分離して計算するのは、かなり難しいように思われる。この点は今後の課題だ。 なお、ひとつのアイディアであるが、営業倉庫の屋根に太陽光パネルを置き、発電を行って電力を自給するという方法もある。太陽光パネルの発電量は条件にもよるが、だいたい年間150kWh程度である。普通倉庫だけだがその倉庫面積が37,274千平方メートルであるので、平均4階建てと考えれば、屋根の面積は1千万平方メートルありそうだ。太陽光パネルを貼れば1億5千万kWhの発電量となる。 倉庫の消費電力の数分の1程度ではないかと思われるが、何も付加価値をうまない屋上を有効活用することは考えても良いのではないだろうか。●フォークリフト 倉庫のマテハンで使うフォークリフトにはバッテリー式とエンジン式がある。港湾ではトランスファークレーンやストラドル・キャリア等の大型設備が動いている。ほかに物流センターでは、ソーターや自動倉庫が稼動している。 これらのいわゆる物流機器のCO2排出量はどの程度だろうか。 現場で最もよく目にするフォークリフトだけでも試算してみる。旭硝子の環境報告書を少し分析すると、次のような原単位を得ることが出来た。いずれも100時間当たりのCO2排出量である。なお、フォークリフトの実稼働時間も、概ね月100時間くらいで近い値なのではないだろうか。【フォークリフトの原単位の例】 電動フォーク 127kg-CO2/100時間運転 軽油フォーク 671kg-CO2/100時間運転 フォークリフトの業界資料から、平成18年度のバッテリー式フォークリフトは41,818台、燃料式フォークは43,066台の出荷であった。上記の原単位を使えば、 バッテリー式:41818台×127kg×12ヵ月=6.7万トン 燃料式:43066台×671kg×12ヵ月=34.6万トン となり、計年間40万トン程度のCO2排出量となる。輸送のCO2と比較してかなり小さいが、正確性についてはやや自信がない。検証が更に必要である。●包装からのCO2排出量 包装材やコンテナなどのリターナブル容器の、CO2原単位もまた整備されていない。個々の企業ではそれぞれLCAデータあるようだが、公式な原単位は見当たらないようだ。ちなみに現在、環境会議の「包装適正化委員会」で包装関連の原単位を整備している最中と聞いているので、同委員会の今後の作業に期待したい。 ここでは全国段ボール工業組合連合会の資料から算出してみる。それは、「2007 年段ボールのLCA基礎調査」(詳細は、http://www.zendanren.or.jp/image/shiryo01.pdf)である。この調査によればLCAの結果、 段ボール箱のCO2排出量 352.5 g-CO2/平方メートル 段ボールの単位重量 736g/平方メートルとなっている。これは、『素材である板紙製造、段ボールの加工と配送、リサイクルまで』を考慮した数値である。 全国の段ボールの生産量は、同じ資料から13,965,561千平方メートルとなっているので、総CO2排出量は約500万トン、ということになる。 パッケージのプロフェッショナル企業、コイケに研究会で講演していただいたことがある。その講演では、同社がこうした包装材のCO2原単位をデータベース化しており、顧客企業への提案などに活用しているとのことだった。 なお、物流では再利用型の容器、いわゆるリターナブル容器がしばしば使われる。容器を回収すればそれだけ余分なCO2が発生する。リターナブル容器の樹脂は何度も利用されるので資源の有効活用になっている。しかし、回収するためにエネルギーを使用しCO2を発生させているので、トータルで見た場合に環境負荷が増えているのではないか、という意見を聞いたことがある。 例えば、LCA学会の講演集(http://ilcaj.sntt.or.jp/lcahp/j.pdf)のある論文を見ると、プラスティック容器の回収に関わるエネルギーは、プラ容器自体のエネルギーの1%~3%と推計できそうである。30回から40回使うと回収輸送のエネルギーと、プラ容器自体を製造するエネルギーがバランスする計算である。プラ容器の回転率が例えば年間24回転とすると、2年くらい使用するとバランスすることになる。 これはひとつの参考値である。こうした検討が簡潔にできるよう、原単位の整備が大切な作業であると改めて認識した。 営業倉庫(自営倉庫を除く)、フォークリフト、段ボールのCO2排出量を試算してみた。思っていたよりもかなり少ない数値であるので、正しい数値なのか、もう少し検証が必要だろう。いずれにしてもロジスティクスにおけるCO2は、トータル思考で算出することが欠かせないので「一気通貫で原単位を整備する」ことが必要である。(文責、下村)