つばき
椿よ堅く閉ざした蕾の内奥に秘めたる花弁はいかなる彩りを宿すのかあの人の口唇の如き艶でやかな薄紅色に色づいてほころぶのなら君の傍らで背徳と名付けられたあの芳しき夜の想い出に浸らせてくれやがて訪れた晩秋の朝にひた隠してきた彩りは解き放たれ重なり合う花弁の隙間からは紅色を帯びたぬるき吐息があふれ出すその湿潤な気体が冷気に包まれてゆっくりと凝固し霜柱のベッドの上に散り落ちたとき微かな音が奏でられたならば閉ざした瞼の向こう側から染み入るその音に耳を傾けつつあの人の肌の香りの追憶に耽ろう時空を超えてあの夜に舞い戻るためにそしてあの唇からあの軟らかな唇から微笑みとともにこぼれおちたあの最期の言葉をそっと抱きしめよう