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ディヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪』(みすず書房)
著者のヒーリーは、イギリスの精神科医で、自ら治療にあたっている。 彼がプロザックを処方した例が載っているので、取り上げてみる。 トニー・Lの例。 彼は50歳になろうとしていた。 職業では成功しており、はたから見ても羨ましいような家庭を持っていた。 しかし、その後、職場と家庭でのストレスに神経衰弱が加わり、仕事も家庭も危機に瀕していた。 抑うつ症状か強迫症状もしくはその両方を示しているようだった。 抑うつにも強迫性障害にも効くというプロザック20ミリグラムを処方した。 薬を飲むことに数日間迷った末、トニーは服用を始めた。 3日後、気分は「すばらしくよくなった」が、眠るのが難しくなり、心が「ビデオテープを早回ししているみたいだ」と訴えた。 翌日には、「惨めでたまらず、無力感にうちひしがれた」。 ものごとに集中することが困難になり、とりとめのない考えが猛烈な勢いでうずまくのを止めることができなかった。 トニーはプロザックのせいだと思って服用を止めたが、症状は続いた。 服用を止めた5日後に診察した。 少しよくなっていた。 外にも使える薬があると言って、「ルボックス」を処方した。 飲んだ後、彼は焦燥感を感じ、吐き気を覚えた。 翌日気分が良くなったので、2回目を飲んだが、その夜は眠れなかった。 プロザックでした不快な経験がもう一度くり返されるように見えた。 どちらの場合も、「危ない」気分になったという。 例えば、2回目に「ルボックス」を飲んだ後、「車を飛ばしながら、西欧文明の問題点について考えたい」気がしたそうだ。 やはり「ビデオの早回し」のような精神状態だった。 「頭と身体がばらばらになったような気がしました。攻撃的な気持ちになり、頭の中をさまざまな考えがめまぐるしく駆け巡りました」。 翌朝はひどい気分で何もできなかった。 「無力感でいっぱいのひどい気分で、そのくせ落ち着かなくて、絶望よりもひどくて自殺したくなった」。 彼は、すぐに薬を止めたが、この反応は1週間、尾を引いた。 その1週間の間、「時の経過を計る」のが難しいのに気づいた。 「その夜は、頻繁に時計を見ました。何度見ても同じ時間のことが何度もありました」。 ヒーリーは、トニーが何故こういう反応を示すのかわからなかった。 その後、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬を処方した。 この薬は、彼にわりあい効いた。 まだこの頃は、ヒーリーは「プロザック」や「ルボックス」に重大な副作用があることを知らなかった。 その後、タイチャー、グロード、コールの論文を読み、疑いを深めていったのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年07月03日 17時50分52秒
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