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<『コリオレイナス』@彩の国さいたま芸術劇場~生唐沢に惚れる?>
『コリオレイナス』(原作:シェークスピア、演出/舞台監督:蜷川幸雄)を観てまいりました。主演の唐沢寿明さんの舞台は初。しかも元々熱烈なファンというわけでもなく、 シェークスピアだしセリフが難解で退屈で眠くなったらどうしよう?、それに 同じ演出家の今までの作品はどうも?だったので、私はやっぱり無理?相性が悪いのかな、と思ったりいろいろ心配もなかったわけではないのですが、 結果は・・・予想がいい方向に大きくはずれ、大きな二重丸!ブラボー!な作品で エンターテイメントとして上出来な作品でした。 舞台が紀元前ローマなのですが、この作品の舞台はパンフの蜷川さんいわく、 「ローマをアジアに置き換え」「1国に固定せずいろいろなアジアの国を採りいれた架空の国」、つまり新感線の『朧の森に棲む鬼』と同様、 非常にオリエンタルな香りの、斬新でありながらなつかしいような感じの作りになっていました。 まず画期的なのが、幕の代わりに全体が大きな鏡の「ふすま」風スクリーンに なっていて、最初はそこに観客席がもろに全部写ります。そして舞台がはじまると、 不思議なことに鏡は全くの透明なガラスの板に変化し(照明でチェンジできる 仕掛け?)スクリーンは閉じたままなのに、向こう側で芝居が始まっているのです。そしてその透明スクリーンが開くとまた別の世界が。からくりが素敵! 舞台はなんとぜんぶ階段でできている。これはパンフの蜷川さんいわく、ローマの階段の多い風景イメージと階級性の表現でもあり、日本の神社等の階段のイメージでもあるそうです。そして階段はかなりの急傾斜。 (わたしは「蒲田行進曲」を思い出した) 階段の上にも屏風上のスクリーンが何層もあって、ふすまのように開いては次の絵柄のスクリーンが登場し、次々と紙芝居のように絵柄が変わっていき、完全に開くと、そこから人物が ジャーンと登場する、というような不思議な仕掛けに。 これは、蜷川さん自身が「歌舞伎の襖絵による場面転換する手法を初めて取り入れてみた」とパンフに書いているように実験的冒険のようです。 また衣装も非常にアジアンというか、ジャポネスク。錦絵のような黒字にカラフルな刺繍をほどこした衣装や、日本の武士あるいはアジア、イスラムのような感じにもみえる不思議なガウンなど。よくみると、バルジャンが宿屋で着ているようなベージュのウールコートにカリオストロの黒くて裾を引きずった上着を重ねたような衣装も あり、ドキドキ。そして男たちが腰にさしているのは日本刀!で丸坊主姿です。 唐沢さんの丸坊主も、とても自然でお似合いでした。 女性が胸に下げたアクセサリーも大粒で布なども使った数連の目立つものが多く、オリエンタルな香りがし、つぎつぎと出てくる衣装をみるだけでも興味深かったです。 この作品は4月にはイギリスの記念行事として招待され、公演予定があるそうなので、 アジアンな色づけなど実験的な手法を意欲的に取り入れていたのでしょうか。 とにかく舞台装置そのものが非常にユニークなものばかりでした。 座席が上手端前方のため、閉じた前面のスクリーンの前の狭い舞台の上に、 最初の庶民の群れの登場が自分のすぐ右側から大きな男たちが次々と登場して、 舞台に目の前でどかんどかんと飛び乗っていくので、仰天しました。 (舞台と客席をつなぐ階段などはないので、飛び乗るしかない) 舞台上のできごとは、すべてその20段ほどの急勾配の階段上で行われるのですが、衣装は長いし、動きは容赦なく激しいし、殺陣も多いしで、足を滑らせて階段落ちする 人が現れないかと何度ドキドキしたことでしょう。 それに群集たちが後ろ向きになって舞台ぎりぎりに立つシーンもその足は舞台端から1cm くらいまでせまっていて、舞台からころげ落ちるのではないか、とやはりドキドキ。 (注:階段落ちや舞台から飛び降りるシーンもありますけど、もちろんわざとです。) 階段の上からだだだーーっと人が駆け下りるシーンは勢いで客席に転げ落ちそうで 私も含め周りの人たちもそのたびに「キャー」(ギャーかな?)みたいに声をあげそうに なりました。心臓の弱い方はあまり前の方に座らない方がいいかも。 さて、キャストですが、主役の唐沢さん。テレビでみると普通ですが、まず顔がとーっても 小さ~い!背も普通。それなのに舞台に彼が登場すると、舞台の空気が一気にびしーっと 引き締まる!やはりこれを「華」「オーラ」と呼ぶのでしょうね。 声は他のベテランの方(良き友人でありアドバイサであるメニーニアス役の吉田鋼太郎さん や宿敵オーフィディアス役の勝村政信さんなど)などがしっかりと地響きのごとく声を出すのに比べると、やはり線が細めというか、 大声を出すと枯れ気味になる感じがありますが、それでもよどみなく 繰り出される長々しいセリフの数々をテンポ欲めりはりよく響かせていて たいへん心地よかったです。マイクは使わないので、地声の響きが勝負! コリオレイナス(唐沢さん)の母親役の白石加代子さんも独特な和風できびきびと歯切れの よい語り口調が功を奏していて非常に印象的で存在感、凄みのある演技! 力を入れるでもないのに、どの言葉もびんびんとホール中に轟いていてまさに怪女!? (エリザベートのストレート版があったら、ぜひゾフィーをお願いしたい!) 場面転換もテンポがよく非常にスムーズで、群集の使い方も効果的でひとりひとりが でっかく活動的に見えました。 はい!この作品は『朧』に似ている部分が多かったです。 異国情緒にあふれてはいるが、同時にオリエンタルな香りもし、しかも殺陣シーンは まさに日本の武士。効果音の使い方(刀の音)も『朧』みたいに、臨場感にあふれて いて、ドキドキしながらも惚れ惚れしました。それでいて、男の強さと弱さ、哀しさが よく描かれ、人間の心の機微、心のふれあいなどの描き方が深く、味わいと高貴な香りのする魅力的な作品に仕上がっているのが凄いなと思います。 適役の勝村さんが非常に迫力、緊張感のとぎれない演技をしたことで、相対する唐沢さんも 光具合を増し、相乗効果で、このふたりの対決のシーンは手に汗にぎる美味しいシーン でした。失礼ながら、勝村さんってこんなにカッコイイ人だったとは! 唐沢さんの演じる『コリオレイナス』(もらった称号)は、執政官に上がるためには、市民に対して腰を低くしてその承認を得なければならないのですが、彼はあまりにも 自尊心が高すぎて、自分を低くすることができない、そのために無念でいっぱいになり 苦しむのですが、友や母親の説得で苦手なことに挑戦しようとする、それでもやはり 抵抗感からうまくやりとおすことができず、ローマから追放されるはめになります。 この役はなんだか唐沢さんをモデルにした「アテガキ」ではないかと思われるほど、 はまり役と思われ、演じてるいるとは思えないほど自然でもあり、ときどき彼自身の 言葉?と思わせるようなユーモアがちらっと見え隠れしたりして、悲劇のはずですが、 客席から笑いが幾度も生じました。(だじゃれ、とかもありますので) 市民の前で無理やり自分を作ってへりくだろうとしても、ついつい口からは高慢な言葉が 飛び出してしまったり、貧しい格好をわざとしてみて、「傘地蔵」のミノみたいな 衣装をかぶって市民に近づこうとするときにも、そんな卑屈な自分が嫌になって 短気を起すのですが、みのをむしりとって、頭にそのかけらがついたままだったり、 本人が本気で怒れば怒るほど、滑稽さがあらわれていて、それも悲劇=喜劇に なりそうな空気とも感じられ、不思議な面白さがありました。 (また、1幕で負傷して肩を出すシーン。血まみれ♪で武具に矢が何本もささったままで 胸も見え(←どこみてるんだか)ちょっとドキドキでした) どうしても逆らえないのが、偉大なる母上(白石加代子)で、この人が「おまえはなっとらーん!!あれこれ・・○△★」とまくし立てると、絶妙な間を置いたあと、「ママ、僕が間違ってたよ~」みたいな激しい後悔とともに、母上の膝元に崩れ落ちる、みたいな変化も 彼独特の空気が功を奏していて、面白かったです。 香寿たつきさんはコリオレイナスの妻役ですが、泣いているか押し黙っているかのどちらかしかパターンがないし、セリフも少ないしで、あまり重要な役のようには思えませんでした。 コリオレイナスの息子役の男の子は可愛かったです。 子供を使ってお涙頂戴的なシーンなどはないところが気に入りました。 とことん自分の我を通そうとする男にはやはり報いがあるわけですが、この作品でも 矢が刺さります。たくさん切られます。血しぶきが飛びます。(クビは飛ばない) 切られても切られてもなかなか死なないのが、主人公のお約束(笑)で、 強く激しく生きた男が壮絶な最期を遂げるというシーン、 気が付くとハラハラと頬を涙が伝っています。 彼自身も泣いていました。 カッコイイ男がついに力尽きるその姿!これほど哀しく魅力的なシーンがあるでしょうか。 超上手の席だったので主に男たちの横顔中心に観察したのですが、横顔フェチ? の自分としては嬉しく、また唐沢さんが上手端に立ってにらんだり、下のほうをみて 考え込んだりするシーンが多くあるので、唐沢さんファンはけっこう上手はお勧めかも。 ということで、「舞台で映えるいい男?」がまた一人増えてしまいました(笑) 唾も涙も汗もしっかり観察できるすごい迫力の男の世界の作品という感じですが、 唐沢さんは唾があまり飛んでいなかったかな?吉田鋼太郎さんが唾飛ばしの名人なのか、 5列目くらいまで飛んでいたような・・・・?横からみるとほんと見えすぎて困ります。 弾丸のようなセリフのやり取りも、全部を理解しなくてもメッセージが受け取れれば 楽しめるんだと気付きました。歌がなくてもこんなに面白いなんて! 言葉遊びを兼ねたようなところもあるのですね。「リチャードを探して」でもアル・パチーノもラップみたいにリズムを愉しむこともできるって言ってましたっけ。 それが今日は体でなんとなく理解できたように思いました。 ミュージカル万歳というブログだったはずですが、最近ストレートの面白さにもめざめて きました。とくに人間同士の心のやり取りを深く表現するには、やはりセリフって大事 だな、と思えるからです。レミゼのように歌で表現しきっている作品ももちろん 素晴らしいですが、音程やリズムなどマスターすべきものがたくさんあるので、それプラス 心情の表現をとなると、かなり高度なことで浅くなり勝ちなのかも。 力強い男たち(+白石加代子さんも)のパワーをたくさんもらって、しっかり充電させて もらった気分です。シェークスピアや蜷川ワールドはちょっと・・と思っていらっしゃる方、ぜひこの作品を観てみてください! 目から鱗が何枚も落ち、感動を胸に劇場を後にできること、うけあいです! <追記> ★パンフレットは25x25cmで、ほぼ真四角。1500円。 ★マチネ上演タイム(休憩も含めて全3時間20分) 1幕:13:00-14:45(1時間45分) (休憩:15分) 2幕:15:00-16:20(1時間20分) ★トイレは1Fにも地下にもあります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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