新吾十番勝負・第三部・・・(10)
新吾の果てしない旅は続きます新吾と共に山に登った道案内の小猿の次郎少年が、新吾の修業を見ていて、剣術を教えてほしいと言ってきます。山案内人の子が剣術を習って何になる、というと父親の仇を討ちたいと言います。仇の名前を聞くと、ものすごく強い奴で「葵新吾」というのだと聞いて、新吾は驚きを見せます。 その頃、吉宗や庄三郎のところには、甲信越の国々で他流試合にことよせ打ち殺された武芸者が多数いるという噂が流れているが、ほんとかどうか、新吾の名を騙っているのではないか、庄三郎は真崎備前守に承諾を得て、真偽のほどを確かめることにします。新吾は次郎の家で詳しい話を聞いています。父親が試合を挑まれたとき、その場にいなかった、江戸の柳生道場からつてを頼って来た人達だ、というのです。新吾は「柳生道場」と聞いて気になります。 柳生流小松道場には、江戸から多羅尾平八が来ていました。新吾の悪評を立て、新吾反対派の老中方の意図は一応達せられた、という山崎平馬に対し、多羅尾は柳生流の面目のため噂を立てて新吾を呼び寄せるのが目的した。今度は失敗は出来ない。話をしているとき、小松道場に新吾がやって来ます。道場に通された新吾を山崎平八と太田忠平の二人が迎えます。次郎の父が試合を挑まれたとき居合わせた二人です。新吾「私は、自源流の葵新吾と申す者」 近辺の道場に新吾が現われたことを知らせる早馬が行きます。山崎と太田は、次郎の父小松甚左衛門を打ち殺したのは新吾でないことを認めます。知らせたい人がいるので、同道してほしいと二人に言います。 そこで、山崎が、新吾の偽者がいると新吾に言い、城下外れの小松ケ原に引出す手はずが出来ている、と持ち掛けます。新吾「誠か」 多羅尾をはじめ各道場からの剣士が小松ケ原へ集結していきます。新吾も山崎と共に小松ケ原へと向かいます。金沢市十郎が新吾の動向をつけているようです。 小松ケ原へ行く途中、茶店で新吾を待っていた次郎に、新吾「次郎喜べ、誠の仇が見つかったぞ」 庄三郎はその頃、急いでいる金沢市十郎に新吾が小松ケ原だと聞いて急ぎます。小松ケ原の約束の場所にくると、山崎と太田が新吾から離れます、と待っていた多羅尾達が周りを囲みます。 ニセ葵新吾は多羅尾平八だったのです。柳生流の剣士達との斬り合いになります。(大立廻りになります) 木の上からは鉄砲が新吾を狙っています。 駆けつけてきた庄三郎の「丸様」という声が聞こえました。新吾が「庄三郎先生」と近づいたとき、庄三郎が木の上で狙っているのに気づき、また新吾ももう一方から狙っているのに気づきます。(大立廻りは続きます)そして、多羅尾といざ交えようというとき、金沢市十郎が老中酒井讃岐守の命によりやってきました。新吾様に剣を向けるとは・・・引かぬ者はとり押えると聞くや、新吾にかかっていった多羅尾は新吾に斬られ、次郎も父の仇を討つことが出来ました。 吉宗からご対面の儀の許しが出ないことが、金沢市十郎から庄三郎に話しているのを、新吾は廊下で聞いてしまいます。 いよいよ江戸へ行かれるのですね、お父様とお母様に会われるのでしょう、といってきた次郎に、新吾は悲しそうな顔をして・・新吾「次郎、お前のように幼くして両親を失った子と、生まれたときから両親の顔を知らぬ子と、どちらがかわいそうだろうな・・・」 新吾が「剣の修業にな」といい出かけようとすると、一緒にという次郎に「立派な侍になることだ、よいか」「はい」と答える次郎、・・・「では、行くぞ」と言い、泣きじゃくる次郎に「皆には内緒だぞ」と口止めを、しかし、次郎はすぐに庄三郎に知らせます。 「丸様はおそらく、江戸からの知らせを耳にせられたのだ、いまさらお引き留めしても・・・」と、そして、庄三郎は新吾に向かって「丸様、どうか運命にめげずにお進みください。実の親と子がいつまでも会わずに済まされるはずはありません。・・・きっと来ます、天下晴れて親子の対面をなされる日は必ずきます」波打ち際を進んでいく新吾の前に、一真が立ちはだかるのです。・・・それは一真を討つことで進んでいく新吾が見た幻視だったのです。新吾の果てしない旅は続きます。 (終)