草間の半次郎 霧の中の渡り鳥・・・(3)
「たしかに・・・どっかで・・・」どうせ畳じゃ死ねないからだ 縁と命があったなら 利根の流れにやくざの染みを 荒い落して会いにくる 半次郎が、足の向くまま、気の向くまま、足をはこんだ先は、鹿島灘の海辺でした。岡っ引きの伊之助は下っぴきを連れて平井の源右衛門を訪ねていました。伊之助は草間の半次郎というやくざが戸山三十郎を斬って、鹿島の方へ来ているのではと、飯岡の息がかかった源右衛門を訪ねて来たのです。源右衛門は境田の安五郎に知らせます。鹿島の海を見つめ、何か思い出すことがあったのでしょうか。遠い日の記憶をたどるようにしている半次郎です。 半次郎「たしかに・・・どっかで・・・」そのとき、背後から浪人が笑いながら半次郎に近寄って来て声をかけてきます。浪人 「何を思い出しているんだ」 浪人「幾千年の昔から、鹿島の海は鹿島の海だ。他にこの眺めがあろうはずはな い」 その言葉に、心の中を見透かされたようで、ムカッときた半次郎が身をひるがえしたとき、浪人が「血だ」といいます。 その言葉に、半次郎が立止まると浪人 「はしおったおぬしの着物の裏に、血がついておる」半次郎が、慌てどこに血がついているのか見ていますと、浪人 「あはっはっは、案外正直ものだな。いまの素振りで、最近おぬしが人を斬 ったことがわかったぞ」 その言葉に、半次郎が身構えると、浪人 「おお、やる気か。おぬしの根性なら、ひょっとするとこっちがやられるか もしれん。ものは試しだ抜いてみろ」そこまでいわれては半次郎も相手にはしません。半次郎「へっへっへっ、馬鹿に付ける薬はあっても、気触れに付ける薬はねえぜ」 そう言い、半次郎は浪人を相手にせず立ち去り、海辺の砂に懐かしさを思っていたところへ、浪人がまたやってきます。「こんどは砂か、いつか何処かでつかんだ砂か」と、つきまとう浪人に半次郎は「うるせえ」と言い残し歩いて行くと、やくざ達が嫌がる娘を連れて行く光景を目にします。 続きます。