2023/08/06(日)17:52
清水港に来た男・・・(11)
「次郎長の腹は?」・・・政吉は芝居を打つことに
あるとき、政吉は六助達にこんなことをいい出したのです。
政吉「おらあ、こねえだからかんげえていたことなんだが、今度の祭りによ、あの
しべえ小屋を借りて、俺達でしべえやってみねえか」
「外題は何か、忠臣蔵か」と六助が聞いてきますと、
政吉「違うよ、石松さんのしべえだよ。石松さんが、どんなひでえ騙され方をして
都鳥に殺されたか、それを俺達が役者になって、お袖さんや町の人達に見せ
るんだ。そうすりゃ、清水一家が都鳥を向こうにまわして、どうでも喧嘩を
しなけりゃならなかったってわけが、みんなにも納得がいくと思うんだ」
そういうと、熊造に浪花節をやってもらうといったのです。
その話を通りかかったお雪が聞いていて、
お雪「政吉、その石松の役を誰がするの」
立ち上がりお雪の傍に行くと、
政吉「へっへっ、そりゃ、主役となりゃ、あっし以外にあいにくと誰もいません
よ」
その言葉にみんなが不満の様子でよってきて、政吉は突き飛ばされ屏風にあたり、それを見て「弱い石松ね」というお雪顔、・・・政吉は頭をあげたとき、通りの侍に目がいきます。
お雪がいった言葉に対して、
政吉「おっと、この政吉が弱いってんですか。えへっへっ、わらわしちゃいけませ
んよ」
そういうと、お雪に、そとを指さし、「あそこにいるおさむれいさん、強そうでしょう」
お雪をはじめみんなが政吉のいうことに耳を傾けますと、
政吉「よござんすか、あの侍に、あっしが喧嘩をふっかけて、きりきりっとまわし
て見せりゃ、この政吉が強いってことがわかるでしょう」
馬鹿にしているみんなに「じゃ、見てろ」と行く政吉を「馬鹿だね、おまえは」と止めますが、
政吉「ちぇっ、なにをいってんだい、馬鹿でも強けりゃいいんだろう」
というと、表へ出て行き、草鞋の紐を締めなおしているそぶりの侍に喧嘩をふっ掛けていきます。
お雪や六助達が覗きこむようにしてその成りゆきを見ています。すると政吉は、その侍の手を足で払い、政吉「やい、間抜け野郎・・・」
そういってきた政吉の顔を見た侍の顔が驚きの表情を見せます。そして、侍が「おお・・・」と政吉にいったとき、政吉はそれを遮るようにまくしたて、「・おつ、おうおう、烏は田圃へ行った、田圃へ。・・ここは人様が通る往来のど真ん中だぜ」とか何とかいいながら、お雪達の見ているなか、侍を海辺の方に誘います。それを見て、お雪は慌て六助達に止めるようにいい、追いかけていきます。
海辺まで来て、みんなが追って来ないのを確認すると、二人は砂浜に座りこみ大笑いします。政之進どんと申すまで、ビックリしたと、侍はいい、こんな所で何をしているのか、と聞きます。すると、政吉は懐から長州藩桂小五郎からの封書を出し、
政吉「これを読んでくだされ」
と、侍に渡します。
書かれていたことは次のようなことでした。
「帰洛の途清水港に立ち寄り、次郎長一家にもぐりこみ、次郎長の真意、勤王ににあるか佐幕にあるかをお探りくだされたく、万一佐幕にあるときは一刀の下に斬り捨ててお戻り願い上げ候ものなり」というものでした。
侍が、政吉に、「ご苦労様です」といい、「次郎長が幕府に味方をして、とうせいの官軍に立ち向かうなら」までいって黙ると、政吉は
政吉「踏み破ってとおるにしても、多少の犠牲は免れません」
で、「次郎長の腹は?」との侍の問いに、政吉は芝居を打つことを話したのでしょう。・・・なかなかよい思いつきだといっているところに、お雪達が探しに来た声が聞こえます。
政吉は侍に「御免」といい、こぶができるほど強く一発、そして、侍をやっつけたとみんなに思わせ成功します。
続きます。