カテゴリ:ショートエッセイ
湯たんぽ
春の気が外へ伸びやかに向かうならば、秋は内へ収まっていく季節で、どっちが好きかといえば私は秋の方が好きだ。紅葉の美しさや朝のひんやりとした清々しい空気が好きだ。 ふと母を思い出した。亡くなって二十年が経つ。 高校卒業間近の二月のこと。当時はそういうお家はめずらしくない「あるある」なのだけれど、流しの桶に溜めた水が朝薄氷がはるような寒いお家で寝起きしていた。 大学受験もなく気がゆるんでいた。夜遅くに帰宅し父母も妹もみな寝静まっていた。 ひのけのない部屋の布団にもぐり込んだ時に湯たんぽの温もりがあった。母が入れておいてくれたのだ。 とてつもなく申し訳ない気持ちで母の顔を思い浮かべた。 もう五十年も前の出来事だ。 当時の母は42歳。もうずっと前にその時の母の年齢を越えた。感傷的になる秋である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.10.08 13:37:53
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