音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

2006/05/12(金)20:34

上原ひろみ サマーレインの彼方

本(130)

ピアニスト上原ひろみの2005年5月30日の「Spiral」の録音から、 2005年7月31日の「富士ロック・フェスティヴァル」までを密着取材したルポです。 生い立ちから、現在までの彼女の人生を織り込みながら、物語が進行していきます。 この本を見ていると、テレビのドキュメンタリーを見ているような気になってきます。 彼女の人となりがよく分かり、 彼女のファンにとっては、必読のドキュメンタリーではないでしょうか。 いろいろと、新たな発見もありました。 まず、天才女性ピアニストと騒がれていますが、 実は、彼女の信条は「努力、根性、気合い」だというんですね。 まるで、どこかの大学の体育系の人間の信条と間違えてしまいそうです。 絶え間のない努力を続け、今の彼女ができているということがよく分かります。 まず、一番優先されるのがピアノを弾くことができる環境と、 最大限ピアノを弾く時間を確保することにありました。 高校(浜松北高校)では昼休みに、学校のホールでいつもピアノを弾いていました。 大学(法政)では、ピアノを弾く時間を確保するために、 アルバイトを自宅から出きるだけ近いところを選び、 将来のための英会話を習うにしても、 自宅から最も近い、横河電機の英会話教室に頼み込んで入らせてもらうなどの、 普通の人では、とてもそこまではやらないようなことをやりました。  バークリー音楽院でも、学内コンサートで、出来るだけアピールするために ポスターを沢山作ったり、ビラ貼りを禁止されている、学内の掲示板に、 剥がされても、何度も貼ったりと、 目に見えないところでの努力は、並みたいていではありません。 あの髪型にしても、みんなよりも目立つことを考えてのことだそうです。  アーマッド・ジャマル、オスカー・ピーターソン、チック・コリア、 矢野顕子、現在のバンドのメンバーなどとの出会いのエピソードなども盛りだくさんで、 上原ひろみの人となりがよく分かります。 一言で言って、根性あるな~と思いました。 演奏だけ聴いていると分からないことが、この本を読むことによって分かることがあります。 例えば、通常だと録音作業は、スタジオに入って、曲を作り、リハーサルをして収録する、 という手順を踏みますが、彼女の場合には、曲を作ってから、ツアーなどで、演奏を熟成させ、 その後に録音というプロセスをとっています。 こうすると、演奏の練度が増し、よりよい演奏を収録することが出来ます。 彼女の目標は、「リスナーの心がぶるっと震える」ような演奏をすることだそうです。  スタンダードに対する気持ちにしても、作曲家への敬意が強く、 曲の内容を完全に理解するには、まだ経験が足りないと話しています。 おそらく、スタンダードを手がけるのは30歳を過ぎてからになりそうですが、 とても期待が持てる話だと思います。  ということで、外見から想像するような人ではなく、とてもストイックで努力家であることが伺え、 益々ファンになってしまいそうです。 個人的には、人間性は音楽には反映しないと思っていますが、 彼女場合には、内面の美しさが、音楽にも反映されているかもしれませんね。 上原ひろみ サマーレインの彼方(幻灯社2005年10月25日 第1刷) 文:神舘和典 写真:白土恭子

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