音楽雑記帳＋　クラシック・ジャズ・吹奏楽

　昨年出たキム・カシュカシアンのアルメニアとイスラエルの作曲家の作品集を聞く。
邦題「川よ、川よ～ヴィオラによる悲歌集」で、現代音楽でありながらとても聴きやすい曲ばかりです。
ここで取り上げられているのは、イスラエルのテルアヴィヴ生まれの女流作曲家ベティ・オリヴェロ、ベイルート生まれでアルメニア人のティグラン・マンスリアン、イスラエルのエイタン・スタインバーグという３人の作編曲です。
聞いていると、以前見た中近東を題材にした映画（題名は忘れました）の岩だらけの荒れた土地と貧しい人々、そこに吹く乾いた風を思い出しました。
　カシュカシアンはヴァイオリン協奏曲を録音するなど、以前からマンスリアンを積極的に紹介しています。
このアルバムでも2曲取り上げています。
個人的に気に入ったのは「３つのアリア」（アララト山に面した窓からの叫び）の中の第３曲。
ヴィオラの悲痛な叫びに寄り添うヴィヴラフォンやフルートなどの優しい音色の対比が絶妙で、胸を締め付けられるような思いがします。
この曲集ではボストン・モダン・オーケストラ・プロジェクトが付き合っていますが、この第３曲では僅かの楽器しか使っていません。
第２曲も中東の風が感じられるような、ゆったりとした時が流れています。
第１曲目のベティ・オリヴェロの表題曲は、まさに砂漠や荒野の厳しい風景を感じさせる音楽です。
最初から不協和音の連続で、いかにも厳しい感じがよく出ています。
そこからくっきりと浮かび上がるアコーディオン、作曲者の腕の冴えが感じられるイントロです。
それから、ヴィオラが出てきて、アコーディオンと絡み合います。
ヴィオラの節回しは何故か、イスラム圏で聞かれるコーランの旋律に似ているようです。
アコーディオンは終始厳しい表情を崩しません。
中間部からの盛り上がりはなかなかのものです。
　２曲目は、ヴィオラにヴィブラホンの伴奏がついた曲です。
沈黙の時間が長いですが、旋律は中近東風のエキゾチックなものです。
ヴィオラは分厚い音でモノローグ的である半面、かなり饒舌な語り口。
ヴィブラホンは時々ポツンポツンと単音を鳴らすだけで、旋律は一切なく、表に出てくることはありません。
　アルメニア人のソングライター・コミタス（通称Komitas Vardapet　コミタス司祭　本名Soghomon Gevorki Soghomonyan　1869-1935）の編曲が１曲あります。
コミタスはアルメニア近代音楽の確立者で、１９１５年のオスマン帝国によるアルメニア人ジェノサイドの生き残りだそうです。
カシュカシアンはコミタスの「Oror」を以前ピアノとのデュオで録音していました。（Hayren - Music Of Komitas And Tigran Mansurian）
コミタスの「Oror」はマンスリアンの編曲で編曲者自身のピアノ独奏で演奏されます。
ピアノのイントロから寂しげな雰囲気が漂ってきます。
ゆったりとしたテンポでとぎれとぎれに出てくる音で、悲しみが一層深くなるようです。
最後のエイタン・スタインバーグの「Rava Deravin」は弦楽四重奏の不協和音をバックに、ヴィオラが苦渋に満ちた歌います。
かなり、辛口の音楽で、バックの弦楽四重奏が時々鋭いモチーフを響かせ、ヴィオラを刺激します。
一転、テンポが速くなり、バックがミニマル音楽風のリズムを刻み始めます。
ヴィオラは相変わらずですが、この転換は結構刺激的です。
後半は、また、ゆったりとした音楽に戻りますが、バックの刺激的なモチーフは一層過激かつヒステリックになるところが面白いです。
ヴィオラの表現力の比重が大きい音楽ですが、カシュカシアンの実力が大いにものを言っている、そんな感じがします。
コミタス・ヴァーチャル・ミュージアム

Kim Kashkashian ：Neharot（ECM NEW SERIES 2065 4763281)

1. Betty Olivero: Nehart Nehart for viola, accordion, percussion, two string ensembles and tape
2. Tigran Mansurian: Tagh of the Funeral of the Lord for viola and percussion
3. Komitas: Oror for piano
4. Mansurian: Three Arias - Sung Out the Window Facing Mount Ararat
  i. Andante ma non troppo
  ii. Tranquillo, poco libero
  iii. Lento, ma non troppo
7. Eitan Steinberg: Rava Deravin for viola and string quartet

Kim Kashkashian(vn except track3)
Munchener KammerOrchester(track1)
Alexander Liebreich,conductor(track1)
Robyn Schulkowsky(Perc,track2)
Tirigan Mansurian(p,track3)
Boston Modern Orchestra Project(track4)
Gil Rose,conductor
Kuss Quartet(track7)