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カテゴリ:クラシック音楽
グリモーの新譜はカメラータ・ザルツブルクと組んだモーツァルトのピアノ協奏曲20番とウクライナの現代作曲家ワレンティン・シルベストロフ(1937-)の組み合わせ、という意欲的なプログラム。 指揮者の名前がクレジットされていないので、グリモーの弾き振りだろうか。 グリモーのモーツァルトは19番と23番を組み合わせたグラモフォン盤に続く第二弾。 手持の内田光子(クリーブランド)とアルゲリッチのルガーノでのライブを参考までに聞いた。 テンポは内田が遅く、グリモーとアルゲリッチはそれほど変わらない。 表現も内田が穏やかな表現に終始していて、あまり面白くない。 それにたいしてアルゲリッチとグリモーはかなり攻めた演奏。 特にグリモーは勢いがある。 出だしでアゴーギクを僅かにかけていたので、思い入れたっぷりにやられたら敵わんわと思ったのは、杞憂だった。 第一楽章のベートーベン作のカデンツァでも、力感溢れるダイナミックな表現が目立つ。 こんなにゴリゴリと弾いても良いのかな、と心配になる程パワフルだが。 第3楽章もテンポが速く、メリハリがはっきりしていてダイナミックな演奏。 曲の持つデモーニッシュな暗さはあまり感じられないが、それを上回る勢いが目立つ。 第二楽章も重くならず、すっきりとした仕上がり。 あくまでも堂々としていて、音楽がちんまりとして、弱々しくならないのがいい。 従来のイメージに捉われない解釈と演奏で大いに満足した。 内田の演奏は評価が高いが、グリモーの演奏を聴くと、どうしても古臭く感じてしまう。 テンポの遅さも一昔前の一つ一つの音に意味を持たせるような演奏で、古臭さに一層拍車がかかる。 以前購入したラトルとのベートーヴェンも従来の演奏の延長上にあり、新鮮味はなかった。 内田も過去の人になりつつあるような気がする。 二曲のアンダンテも気合の入った演奏。 スケールが大きい。 シルベストロフは名前は聞いたことがあった。 グリモーが長年手がけてきた作曲家で、「Memory」でもBagatelleが2曲取り上げられていることが分かった。 なので、このウクライナ生まれの作曲家を初めて聴くと思ったのは勘違いだった。 タイトル・チューンは、モーツァルトの作品と言ってもおかしくないほどだ。 ピアノ協奏曲第21番のアレグレットを幻想的にしたような感じだ。 なるほど、この2人の作曲家を取り上げた理由がわかるような気がする。 ところで、室内管弦楽団とピアノの演奏なのに、自然の音を重ねたような、何やら余計な音がする。 ブックレットを見るとユニヴァーサルのプロデューサー、サウンドエンジニアであるステファン・フロック氏による効果音とのこと。 この後参考までに聞いたクレーメルの演奏ではなかったので、グリモー盤独自の試みだろうが、却って音楽に対する集中力が削がれる感じがする。 この曲は最後にピアノ・ソロでも弾かれている。 ソロの方が虚雑物がなく、曲の美しさが感じられる。 ただ、テンポが遅く、もたれ気味に聴こえる。 テンポが速いとモーツァルトに激似になりそうなので、遅くしているのだろうか。 「二つのダイアローグと後書き」は、シューベルトとワーグナーを下敷きにした作品。 三曲目に自作の後書きが付いている。 シューベルトはいわゆる「クッペルヴィーザー・ワルツ」(1826)と呼ばれる。 シューベルトの友人のクッペルヴィーザーの曾孫に口伝で伝えられたワルツをR.シュトラウスが採譜したものらしい。 ワーグナーは「エレジー」(1882)というピアノ曲。 2曲とも原曲を思いっきり肥大させていて、映画音楽でも聞いている気分になる。 原曲のイメージからはかなり離れていて、特にワーグナーの寂しさがさっぱりと削られている感じがする。 「朝のセレナード」も同じような傾向で、美しいには違いないが、押し付けがましい感じがする。 モーツァルトは従来のイメージに捉われない解釈と演奏で大いに満足した。 シルベストロフトは聴きやすい曲だが、清らかとまではいかない。 少し濁っている感じで、個人的にはイマイチと思う。 まあ、他の作品も聞いてみないとわからないといったところ。 録音はいいが、独奏での残響が多すぎる気がする。 なので、どうしてもムーディになりがちだ。 Hélène Grimaud:The Messenger(DGG)24bit96kHzFlac Wolfgang Amadeus Mozart: 1.Fantasia No. 3 in D Minor, K. 397 2.Concerto for Piano and Orchestra No. 20 in D minor K 466 I. Allegro (Cadenza Beethoven) II. Romance III. Rondo. Allegro assai (Cadenza Beethoven) 5.Fantasia No. 4 in C Minor, K. 475 Valentin Silvestrov: 6.The Messenger (For Piano and Strings) 1996 7.Dialogues with Postscript (version for piano and string orchestra) I. Wedding Waltz (1826 … 2002) (Fr. Schubert … V. Silvestrov) II. Postlude(1882 … 2001) (R. Wagner … V. Silvestrov) III. Morning Serenade(2002) (V. Silvestrov) 10.The Messenger (For Piano Solo) Hélène Grimau(p) Camerata Salzburg Stephan Flock(Sound Effects track6) Recording: Austria, Universität Salzburg, Große Universitätsaula, 1/2020 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020年10月08日 16時09分45秒
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