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カテゴリ:ジャズ
ロンドン在住のサックス奏者ヌバイヤ・ガルシアの新譜を聴く。 以前「Source」(2021)というアルバムを取り上げたことがある。 以後リミックスを含めいろいろな録音が出たが、アルバムとしては多分、今度の「オデッセイ」が2作目だろう。 「Source」は最近あまり耳にしていなかったが、今回のアルバムは前作と比べて大幅に作風が変化している。 ガルシアの太いサウンドはそのままだが、スケールが超巨大になっているのだ。 ディストリビューターによれば、彼女は「このアルバムは、自分自身の道を真に歩むこと、そして、こうあるべきだ、あああるべきだという外部の雑音をすべて捨て去ることを表現しています。 それはまた、常に変化し続ける人生の冒険や生きることの紆余曲折にもインスパイアされています」とコメントしている。 分かりにくい表現だが、このコメントに拘泥することなく楽しむのが正しい?聴き方だろう。 アルバム・タイトルに相応しく、壮大なスケールを感じさせる作品だが、個人的にはあまり同意できる音楽ではないというか、そのような音楽なのだろう。 なので彼女のやる気は感じられるものの、それが空回りしているという印象だ。 手を加えすぎて演奏を難しくしているように思う。 アルバム全体が、彼女が好きなダブ(ジャマイカア発祥の音楽ジャンルで、特にレゲエから派生したサウンドのこと)のサウンドを取り入れている。 具体的には『重低音のベースラインやエコー、リバーブなどの音響効果、ボーカルや楽器のパートを極端に加工することで、スペースを感じさせる独特な雰囲気を生み出している』とのこと。 インタビューより。 なのでドラムの細かいビートが前面に出すぎて、全体的に騒がしい印象を与えてしまっていると感じるが、そのような音楽だということだろう。 新たに加えられた弦も表に出すぎていて、曲のバランスが悪かったり、サックスの音が生音ではなく、加工されているように感じられ、印象が悪いという筆者の感想も、ダブの音楽だと思えば納得できる。 理解が進んでいないということもあり、筆者は現時点では同意できる音楽ではない。 最初の「Dawn」ではエスペランサ・スポルディングのヴォーカルが加わっている。 やたらと騒がしい音楽で、スポルディングのヴォーカルもいいのかどうかわからない。 ドラムスが煩いのも原因の一つだ。 タイトルチューンの「Odyssey」はアルバム中最も長い7分ほどの曲。 ガルシアの骨太で豪快なテナーが炸裂する。 ここでもバックがうるさすぎる。 後半にも同名曲が出るが、一分に満たない演奏で、間奏曲的な位置づけだろう。 ただ、空間を埋めるシンセのサウンドが途方もないスケールを感じさせる。 「The Seer」はマッコイタイナー風の四度和音を使っているが、ダブを取り入れてるので、やかましい。 現代のニーナ・シモンといわれるジョージア・アン・マルドロウのヴォーカルが入る「We Walk In Gold」は素朴な民謡風の曲で、サウンドこそ、ごった煮だが、比較的素直に聴くことが出来る。 「Water's Path」弦の細かいピチカートにのって、ジェイムズ・ダグラスのチェロのソロが入る。 サックスの出番はない。 「Clarity」はラテン系の穏やかな曲で、比較的落ち着いた曲。 ピアノやテナーのソロは悪くないが、弦が表に出すぎてうるさい。 11曲目も同じ曲だが、1分半ほどの短いバージョン。 弦とシンセにテナーで、響きが薄いため割と落ち着いた雰囲気になっている。 最後の「Triumphance」は「Triumph」に「ance」という接尾辞をつけた造語のようで、意味は「勝利すること」や「成功すること」だろうか。 この曲を持って彼女の長い旅が終わったということかもしれない。 タイトル通り希望を感じさせるリズミックな曲。 kokorokoのSheila Maurice-Greyがヴォーカルで加わっている。 メンバーの中ではジョセフ・アーモン・ジョーンズがいい。 周りが騒がしいだけに、彼の端正なピアノ・プレイが余計光って見える。 ベースのサム・ジョーンズは一瞬ベースの名手のことを思い出してしまったが、彼は1981年に亡くなっていて、このアルバムのドラマーはニュージーランド出身だそうだ。 筆者の興味を惹いたのは、弦が加わっているトラックが8曲あり、オーケストラがクラシック・ファンの間では今話題の「チネッケ・オーケストラ」だということだ。 このオーケストラはヨーロッパ初の黒人と少数民族によるオーケストラで、デッカから数枚のアルバムを出している、なかなか特徴のあるオーケストラだ。 録音している曲目も黒人の作曲家の作品が取り上げられている。 弦の編曲はヌバイア自身が手掛けている。 どうやらヌバイアは意識高い系のミュージシャンで、チネッケ・オーケストラを起用した理由もその意識からの選択だったと思うのは、穿ちすぎだろうか。 ということで、現在の彼女の嗜好する音楽が全開の力作であることは間違いないが、中身を詰め込み過ぎていて、しつこくなっているので、好き嫌いが出る音楽だろうと思う。 UKでは受けるのだろうが、日本のジャズ・ファンに受けるかどうかは、はなはだ疑問だ。 MIKIKI Nubya Garcia:Odyssey(Concord 7261435)24bit 96kHz Flac 1.Nubya Garcia:Dawn 2.Nubya Garcia:Odyssey 3.Nubya Garcia:Solstice 4.Nubya Garcia:Set It Free 5.Nubya Garcia:The Seer 6.Nubya Garcia:Odyssey 7.Nubya Garcia, Georgia Anne Muldrow:We Walk In Gold 8.Nubya Garcia:Water's Path 9.Nubya Garcia:Clarity 10.Nubya Garcia:In Other Words, Living 11.Nubya Garcia:Clarity 12.Nubya Garcia:Triumphance All composed by Nubya Garcia except track 7(Garcia and Georgia Anne Muldrow) Nubya Garcia(ts except track8)) Chineke! Orchestra(track1-2,6-11) Joe Armon-Jones(key track 1-5,7,9,12) Daniel Casimir(b track 1-5,7,9,10,12) Sam Jones(ds track 1-5,7,9,10) Jansen Santana( perc. track 1,7,10) Esperanza Spalding (vo track1) Georgia Anne Muldrow (vo track 7) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024年10月14日 19時59分21秒
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