ブックアドバイザー木村綾子の日々の徒然

2024/05/24(金)06:30

読書/『壊れた脳と生きる』。

脳梗塞が発症し、その後高次機能障害を持つことになってしまった著者と高次機能分野の研究者の対談となっている『​壊れた脳と生きる​』を読了。 ​​ 以前にも書いたと思うのですが、私は著者が脳梗塞を患う前から、彼のルポタージュを読んでおり、それだけに彼が脳梗塞を起こした後遺症としての高次機能障害を記すということは、かなり期待をしている読者ではあります。 本書以前に書かれたものよりも対談になっているからでしょうか、それまで以上に著者自身のこと、高次機能障害について詳細にかつ丁寧に分かりやすいものになっていました。 もったいないのが、本書の出版どころ。 ちくまプリマ―新書からなのですが、これは10代でも読めるようになっており、逆に大人が手を出しにくいというか、気が付かずにスルーされてしまうカテゴライズ。 実際中を読んでみると、内容もそうではあるのですが、10代から対象の新書にも関わらず、フリガナがなし。 なのに、あとがきにフリガナがあるという謎の仕様。 これは、10代の子にも読んで欲しいとは思うのですが、高次機能障害の家族を持つ人や医療従事者、福祉関係の人に是非とも手にしてもらいたい1冊であることを先に述べておきます。 これを読んで改めて感じたのは、高次機能障害は発達障害や認知症と同じ症状が発症するということ。 もちろん、個々によってその発症の仕方は変わってくるので、3つの疾患が全て同じですと一括りにするのは、野蛮ではあるのですが、そのように括ってしまった方が一般の人には分かりやすいのかもしれません。 著者が高次機能障害をもっていちばんの味方だったのが、もともと発達障害を持つ配偶者だったということです。 著者の困りごとが手に取るように分かるため、事前にかなりの配慮をしてくれたり、戸惑っていたら、すかさず何に困っているのか聞いてくれたりしてくれているようです。 高次機能障害も他の2つの疾患も脳の機能が阻害されるため、脳みそ自体の容量が減ってしまいます。 それをフル回転で動かすために、疲労度が半端ないと。 そうなると、強烈な眠気に襲われついうとうとしてしまうということでした。 これは、私にとっては新たな気づきでした。 これまで、認知症や発達障害の人で日中うとうとしてしまう人をしばし目にしてきましたが、周囲の方からの説明だと薬の影響だという説明を受けていましたが、それは案外違うのかも。 もちろん、薬の影響も無きにしも非ずですが、著者が説明しているように、ちょっとした目から入る刺激に対して機能していない部分以外がそれを何とか補おうとして動かすために脳が披露している所が大きいという方が理にかないます。 実際に、自分自身も物事に集中していると、脳が疲れたという感覚を持ちますし、その時は思わず疲労回復の為に甘いものを無意識に欲してしまいます。 それが、脳の機能障害があると、甘いもので疲労を回復するレベルを超えて疲れるのだと思いました。 それでも、情報処理を完全にすることは出来ずに、高次機能障害は病前のようなことが出来なくなることに自己嫌悪に陥ったり、それを説明する言葉を上手く出せなくて、不安が大きくなり、パニックに陥るという負のスパイラルに巻き込まれているようです。 高次機能障害は退院後の日常生活全てがリハビリになるとありましたが、退院直後はその日常生活が上手くこなせず、周囲のサポートがないと成り立たないということでした。 サポートを受けながら日常生活を行っていくことで年単位で出来ることが増えていくという時間軸のようです。 なので、職場復帰も著者がいうには、元の職場に戻るのがいちばんいいリハビリにもなるようです。 ただ、職場に戻っても元のようなペースで働くというのは最初は絶対的に無理なのだそうです。 それでも、職場のサポートがあれば、年単位でいい方向には向かって行くということでした。 というのも、病前の職場というのは、そこで行っていたことが長期記憶として残っているので、サポートあれば、新たに1から仕事を覚えるよりは負担が少ないことが理由の1番なのだそうです。 もちろん、作業動作は飛躍的に遅くなり、ミスも増えるのですが、長期記憶を基に、複雑な作業をリハビリとして行うことにより、新たな職場で単調作業からスタートよりは回復が早いということでした。 と言っても、病前までの機能に戻るというのは、なかなか難しいようですが、そこもサポートさえあえば何とかなるというのが著者の話でした。 このようなことを対談で語っているのですが、それでも恐らくこの対談には際して著者はかなりの困難や時間軸があったと思います。 文章にしている発言がつらつらと出てきたわけではないと思います。 それでも、ここまで自分の気持ちを客観的に捉えて発言できたということは、それなりの回復があったということと、病前にこのような仕事をしていたからということだと思います。 ということで、是非本書を手にしてもらいたいと思います。 にほんブログ村

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