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むか~しむかしの話じゃ。 山の麓の一軒家でばばさがひとり、夜なべに糸を紡いでいおった。 いろり端で丸うなっておると瞼が自然にさがってきてなぁ。 コックリ、コックリ、外はまだ冷たい雨じゃ。 「コトリッ」 表に何かおるようじゃ。 こわれた戸の隙間からキラッと目が光る。 狼じゃ。 「今日こそあのばば食ってやる。」 と、そろっと玄関を抜けると身構えた。 「降るぞ、漏るぞ。」 そのときばばさがポツリといった。 屋根の雪解け水が漏れてばばさの背中にヒタッと落ちたのじゃ。 ぶるっと震えると、 「古屋のもりは狼よりこわいでな。」 と言って、ばばさは背中を拭いた。 「なにっおりよりこわいもんじゃと。」 と狼は後ずさるとたてかけた箒にあたってパタリと音をたてた。 ばばさは狼に気づくとハッとしたがすぐに知らん顔すると、いろりの灯にぼうっと顔を照らしふふと笑いながらこういったんじゃ。 「やれ狼も雨宿りか。情けなや。どんなでかい口でも降るぞ漏るぞをひとくちでは食わまいが。南無阿弥陀仏。」 狼はゾーっとしてな。 一目散に逃げてしまったと。 ところでこの時ばばさの家にはもう一人牛泥棒も忍んでおってな、ははさの寝込みを待っておったが自分のほうが眠とうなってついうとうとしておると、 「ガルルルッ」 突然目の前を唸りながら飛び出したものがある。 「しまった!!牛じゃ。」 寝ぼけて早合点した泥棒は目を血走らせて追いかけた。 驚いたのは狼のほうじゃ。 後から何かがものすごい勢いで追いかけてくる。 「でっでたぁ~っ!!降るぞ漏るぞじゃ。」 命からがら岩屋に駆け込むと間一髪!入口からはあらい鼻息と岩を削り取るような音がしてくる。 「ええか、今日は絶対外へ出ちゃならんぞ。」 狼たちは震え上がった。 正気に戻った泥棒が、岩屋に入る牛なぞ見たことねぇと岩屋をのぞくと狼の目がいくつも光っておる。 こっちもすっかりこし抜かして一目散。 逃げて帰ってそれっきり。 おしまい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.06.19 13:08:56
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