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むか~し、むかしの話じゃ。 馬瀬村の中切という所に大きな酒屋があったんじゃと。 おる日店に見かけん小僧がやってくると、小さな瓢箪をさしだしてな「酒一斗くれんか。」というんじゃ。 主の治郎兵衛が、 「一合じゃろ、そんな瓢箪には、入らんぞ。」 と聞くと、にこにこ笑って 「いいんじゃ、一斗くれ。」 とけろりと言うんじゃ。 「からかっておるのか。」 治郎兵衛はムッとして 「ええかぼう、もし一斗入ったならわりに十日間一斗ずつ酒をやってもええわ。じゃがなもし入らなんだらどうする。」 と聞いたんじゃ。 すると、小僧は得意そうな顔をして 治郎兵衛に 「もし入らなんだら馬瀬川の水全部飲んで酒小便にしてくれるは。」 と言いよった。 治郎兵衛は、瓢箪をひったくると酒を入れ始めた。 するとどうじゃ、入るわ入るわ一升すぎてもあふれるどころかすいこまれるようでな、とうとう丸々一斗入ってしもうた。 治郎兵衛はすっかり気味悪うなって青い顔をしていると、 「じゃぁ、これから毎日来るで頼みます。銭は払うで気にせんでくりょ。」 と小僧は銭を置くと帰っていった。 治郎兵衛は、初めはさほど気にせんかったが日に日に怪しみだして、ついに後をつけてみることにしたんじゃ。 小僧はスタスタ小走りで村はずれの湯の淵までやってくると、あたりには人がいないか見渡しぶつぶつつぶやくと、ざんぶと淵に飛び込んだ。 治郎兵衛は、(やっぱりあの小僧、魔性の者じゃ。あしたこそつかまえてやる。)と決心してな。 次の日先回りして、小僧が呪文を唱えるのを待つとかけよってえりくびをつかみ、 「こりゃぼう、お前は何者じゃ。」 とめしあげたんじゃ。 びっくりした小僧はじたばたあばれておったが、かなわんと思うと、 「約束しとったのになんできたんじゃ。帰れんようになってまったがー。」 と、泣きべそをかいておる。 なだめすかして聞いてみると、小僧は竜宮の使いで神様にお供えする酒を買いにきとったんじゃが、人に見つかると帰れんということじゃった。 悪いことをしたと思った治郎兵衛は、 「どうじゃ、おりが一緒に行って謝ってやるがそれなら帰れるか。」 ときいたんじゃ。 「そういうことなら行けんこともねぇ。」 と小僧の顔に笑みが戻ると、ぶつぶつ呪文を唱え始め治郎兵衛の手をつかむと、ざぶんと水に入ったんじゃ。 すると治郎兵衛たちの行く先の水が二つに分かれてな、まるで宙を泳いどるようじゃ。 しばらく行くと竜宮が見えてきてな、入り口に美しい乙姫様が待っておるではねぇか。 治郎兵衛がわけを話すと乙姫様は喜んで宴を開いてくれてな、三日三晩乙女たちの歌や舞いのもてなしで、夢のようなときが瞬く間に過ぎたんじゃ。 しかし、ふと家族のことを思い出すと、いとまをつげたんだと。 乙姫様は別れを惜しんで土産に宝箱を持たせると、静かに言ったんじゃ。 「この箱はききみみといって、耳をあてると虫や鳥の話すことがわかります。しかし、あけてしまうと死ぬことになりますから、ご注意を・・・・・・・。」 最後の言葉がぼんやりかすむと治郎兵衛は、あの飛び込んだ川の淵に立っておった。 夢ではないかと思ったが、宝箱を持っておる。 慌ててその箱に耳をあてると、 「治郎兵衛が死んで三年じゃ。今日は三回忌のお経をあげておるぞ。」 目を上げると二羽のカラスが飛んでおる。 カラスの声が聞こえたんじゃなぁ、そこで慌てて家に帰ると家中大騒ぎじゃ。 お経がいっぺんに祝い唄になったんじゃと。 ところで治郎兵衛には年頃の美しい娘がおってな、ととさまのもって帰った箱が気になって仕方がない。 ついに父親の目を盗んで箱を開けると、ぱぁっといい香りが広がってな、箱の中にはかわいらしい人形が入っておったんじゃ。不思議なことにそれを食べずにおれん気分になって、娘はぺろりとひとのみにしてしまったんじゃ。 しばらくすると両親は旅先で死んでしまい、娘は二人のために全国を行脚したんじゃが、美しいまま八百歳まで生きたもんでな八百比丘尼と呼ばれじゃんだと。
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