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むか~し、むかしの話じゃ。 一人の匠が飛騨へと向かって歩いておった。 飛騨の匠といえば天下に聞こえた名工じゃ。 今朝おえた仕事も見事な出来で、しなやかな仕上がりに身体の疲れも癒され足取りも軽く家路についておったんじゃ。 日が頭上に昇る頃、匠は隣村の黒川にさしかかり、ふと足を止めると、あたりは新緑のさかり川下のしぶきが光ってなぁ、スーッと息を吸い込むと、 「あぁこんな所に気楽な家でも建ててくらしてえなぁ。」 匠はため息交じりに思いをめぐらせるのじゃった。 とおくの法からカーンコーンと耳慣れた音が聞こえてくる。 ついさそわれてのぞいてみると、土地の大工が家を建てておる。 「おーい昼じゃ。メシにするぞおー。」 大工たちが弁当を広げると、初めて匠は声をかけた。 「昼休みのうちだけでいいで、ちょっとわしにもやらせてくれんか。」 匠は無造作にちょうなをふるうと、カンカンカンと気持ちいい音をたてて削られた木っ端が待っていくのじゃ。 大工たちは名人芸に身を乗り出すと、はっと息をのんだ。 空に上がった木っ端のひとつひとつがひらりと回ると人の姿に化けてゆくのじゃ。 大工たちは声も声も出ん。 木っ端の人間たちは道具を握ると流れるように動き出した。 あれよあれよと家が組み立てられ、夢うつつの大工たちが、 「神様じゃ・・・・・・・。」 とつぶやきふとわれに帰ると、腕を振るっておった男や木っ端の人間たちは消えて行ったんじゃと。 そしてかわりに一軒の見事な家が残されてな、 「こんな仕事は飛騨の匠にちげえねぇ。そういえばひとり白川で仕事をしてござると聞いておったが、たいしたもんじゃ。」 と一人の大工が言うと皆口々に 「飛騨の匠のたわむれよのう。」 と感心したんじゃと。 おしまい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.07.05 13:12:51
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