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カテゴリ:ボクシング
セコンドに抱きかかえられながらコーナーの椅子に腰を落とし、
いつものことながら目の周りを腫らし、チャンピオンの左のパンチ で右目の下から血がにじみ、「今日の試合はきつかった!」、とい わんばかりに瞼を何度かしばたかせ、敗れた悔しさよりも、その目 と表情はもう充分に戦った、もう終わったとでも言っているようで、 そして小さく十字を切った、決して超一流ボクサーではなかったが、 たとえ負け試合であってもどの試合に於いてもフアンを熱狂させた、 初のタイトルの獲得は1995年のトレーシー・パターソン選手か ら獲得のIBF世界スーパーフェザー級チャンピオン、もう今やベ テラン選手であるが、何処かにやんちゃ坊主が勇敢にリングで戦っ ている、たえずそんな雰囲気を漂わせ、とりわけ女性フアンも多く、 お客さんが打ち合ってほしいと思う時には、少々打たれるのも承知 で打ち合いに果敢に挑む、倒すか倒されるかのスリリングな試合を、 どの試合もフアンの期待を決して裏切ることなく楽しませてくれた、 アルツロ・ガッテイ選手の長い選手生活に別れを告げる小さな儀式 のようにも見えた。 フロイド・メイウエザー選手に、1Rにチョッとした不利なアク シデント、(レフリーに抗議中にパンチを受けてダウン)、があっ たとはいうものの完全にパワーとスピード負け、その前にもオスカ ー・デ・ラ・ホーヤ選手にも同じく、ここ最近、スーパーライト級 の人気選手、実力のある選手がこぞって、ウエルター級に主戦場を 求め、ガッティも同じくウエルター級のザブ・ジュダー選手を大番 狂わせで破ったWBC世界ウエルター級チャンピオンのカルロス・ バルドミール選手に挑戦、チャンピオンはナチュラルのウエルター 級選手、ガッティ選手は最初の世界チャンピオンはスーパーフェザ ー級、そこからクラスを上げてきている、両選手が構えあった時、 元々の骨格の大きさの違いを感じる、果たしてガッテイのパンチの スピードとパワーが通じるか、チャンピオンのパワーにどれだけ耐 えられるか、ここが勝敗の分岐点、克ってニカラグアの貴公子とい われ、徐々にクラスを上げてきたアレクシス・アルゲリョ選手がウ エルター級のチャンピオン・アーロン・プライヤー選手に挑んだ事 があった、再三、アルゲリョ選手は元のクラスではノックダウンを 奪うか、大きなダメージを与えるパンチを当てていたが、プライヤ ー選手はそれに耐え、徐々に体力差に圧倒されだし、終盤に倒され た、再選をしたときも同じような結果に終わった、ガッティよりも はるかに強打者であり、強い選手だったアルゲリョでさも体格差い う大きな壁が立ちはだかった、この試合のゴングが鳴った時にその 事が頭をよぎった。 ガッティ選手はどの試合も印象に残る試合を続けてきた長いキャ リアの中で、とりわけ印象と記憶に残る試合はなんといっても、全 てがノンタイトル戦ではあるが、それぞれが年間最高試合にノミネ ートされるほどの好試合、アイバン・ロビンソン選手との2試合、 (ガッティ選手の2敗)、とミッキー・ウオード選手との3試合、 (ガッティ選手2勝1敗)、のこの5試合は両者がフルラウンドの 壮絶な打ち合い、1つのラウンド中でポイントが行った来たり、そ れもKOのチャンスとピンチを伴い、片方がチャンスになったかと 思うと、瞬時に攻守所を替えてピンチ、しかも回を重ねるごとにそ のチャンスも大きくなり、またピンチも大きくなる、両者が狂った ように、それでいて神がったように、ただひたすらに、チャンスに はパンチを繰り出し、ピンチには耐え忍び、攻撃でピンチを跳ね返 し、今度はチャンスを迎えて攻撃する、そのどの試合も、試合の後 半になると、ラウンドの終了のゴングが鳴ると、フアンはスタンデ ングオベーションで戦う両選手を称えた。 フアンはガッティ選手の試合に興奮し、大いに楽しんでいたが、 心のどこかに、少しでも長く、少しでも多くの彼の試合を望む余り、 「ガッティよ、こんな激しい試合ばかりを続けていると、選手寿命 は余り長くはない」、そう思い始めていた、この記憶に残る5試合 の最後の試合、ウオード選手との第3戦目に、フアンの声が届いた のか、殆どデフェンスをすることなく打ち合いを演じていたガッテ イはフットワーク、ボデイワーク、ダッキング、そして両の拳でガ ードしながらの打ち合いを演じた、ボクシングのスタイルがデフェ ンシブに変わったわけではない、実はこの試合の途中で拳を痛め、 やむなくアウトボクシングの戦法に切り替えた、その気になればア ウトボクシングも出来たのである、この5試合のビデオテープをつ なぐだけで、2時間余りのスリリングな魅力一杯のボクシングドラ マの大作が出来るほどである。 ガッティ選手がウエルター級のタイトルに挑んだ試合、滑り出し はガッティ選手の力のこもった、体の回転をきかし、パンチが当た る瞬間に綺麗に力強く手首の良くかえった大振りの左フックがあた っていたが、チャンピオンも体が硬そうで、不器用そうに見えるが、 ガッティ選手の左フックに対して、内側から右のストレートのタイ ミングも絶妙にあっていた、この日のガッティ選手の左の拳は防御 よりも攻撃に重点が置かれており、そこをチャンピオンのモーショ ンの小さい、それでいて重い、パワーのある右が狙い打ち、それが ことごとくヒット、徐々にガッテイ選手にダメージが蓄積、対して ガッティ選手は力のこもった、振りの大きな左で対抗、良いタイミ ングでヒットするも、打たれ強そうなチャンピオンにダメージを与 えられない、このあたりに徐々に体格差が現れだしてくる、中盤過 ぎにチャンピオンの脇腹をえぐるようなボデイブロー、右の肘でガ ード、その肘の先端を直撃、ガッティ選手はおかしな仕草、右手を 痛そうに押さえる、ガードした右肘の先端にパンチが当たって、電 気が来て痺れたのであろう、以来右のパンチが出せなくなり、右で タイミングを計りながら打つ左が出なくなり、たまに出しても精度 が悪くなりだす、フットワークを使って距離をとろうとするが、チ ャンピオンは容赦なく接近して連打、ガッティ選手が連打を受けて ロープに詰まる時間が長くなる、そして9回、ロープに詰められ連 打を浴びながらも、大振りの左を身を屈めて、足に力を込めて、伸 び上がるようにして力一杯に振り回し、一発逆転を狙う、こういう 場面になってもガッティ選手には何か起こりそうな魅力がある、本 人がとりわけそう思い、信じ、戦っている、つめにかかるチャンピ オンは大振りをせずにコンパクトな攻撃、隙を見せない、一発逆転 のガッテイ選手の力のこもった左より、一瞬は早く、しかも内側か らチャンピオンのパンチが顎に振りぬかれる、ガッティ選手は前の めりにダウン、終わった、終わったかァ~、ダメージが大きい、一 度は立ち上がったが、たちまちチャンピオンの連打で崩れるように ダウン、それと同時にレフリーはカウントをとることなく、この試 合をストップ。 この10年間の間、フアンを喜ばせるためにあえて、ガッツ溢れ る打ちあいに挑み続けた勇敢な、記憶に残るボクサー、2階級を制 覇した、アルツロ・ガッティ選手、リングを去るか、正式に引退表 明をしたわけではないが、試合後に切った小さな十字、あれはキッ と彼の引退の儀式。 ■「ガッテイ、今日はもうこれで終わろう!」。 http://plaza.rakuten.co.jp/higenoreon/diary/200506290000/ ■「今日の言葉」■ 「 向上心を持っていれば 苦言も成長の糧としていける 」 (自然社・平成18年・新生活標語より) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Sep 7, 2006 08:28:09 AM
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