バーベキュー鍋
昨日の忙しさは格別であった。 朝、まだ暗いうちに、寝苦しいので目が覚めた。汗をかいている。気がつくのに少し時間がかかったが、停電していて扇風機が動いていないからであった。懐中電灯で、大きな配電盤(第1台所)に行って調べたが、配電盤のスウィッチが多すぎてチェックするのはぼくの能力を越えている。一見、変化がないように思えた。しかもご近所を見ると電気がついている様子である。停電はうちだけということである。やむを得ず、上半身裸になって、2度寝した。 頃合を見計らって、Nさんに電話した。Nさんは村のオフィスに電話をしておくので、安心しろと言っていた。心強かった。その間、暇なので、池の水を取り替える作業に入った。こういう作業の規模について、ぼくの考えていることははなはだ小さい。Nさんがご出勤してから、彼女が始めた水取替えの作業は徹底していた。水の全取替えを企てたのである。しかし、停電なので、水が出ない。 そうこうしているうちに、村のメカニックス(機械工)が自転車でやってきて、配電盤をチェックした。多少、あちこちのスウィッチを入れたり切ったりしていたが、すぐに電気が回復した。停電の原因は、ぼくが作った。2日前に、プロジェクターのスウィッチをうっかり、この地の電圧のまま入れてしまった時に、音がして煙が上がり、お釈迦になってしまった。それが機械に感知されて、自動的に送電が停止したらしい。それにしても、すぐに停電になれば、納得するが2日間も送電されていて、忘れたころに停電になるなんて、卑怯だと思った。これはジョークです。 給水が回復したので、池の水を供給し始めた。Nさんは池の中にはだしで入って、ヘドロをかい出している。鯉が暴れている。そうとう時間がかかって、水が満水になった。この度はおかげさまで、蓮の葉陰であるけど、鯉がよく見えるようになった。その成果に大いに満足した。この作業で小さな意見の相違があった。Nさんは、水道水をそのまま池に入れると、有毒な物質が水に混じっているので鯉にダメージを与えるから、汲み置きの水を用いるべきであるといった。しかし、汲み置きの水といっても、バケツで運ぶのは至難の業であって、水量も限られている。ぼくは、水道水は、我が家の巨大なタンクにすでに貯蔵されているものを使うので、すでに有害物質は揮発しているので、汲み置きの水と質的に同じであると主張した。Nさんは、じきにぼくの学説に同意してくれた。 書斎にもどって、PCのスウィッチを入れた。軌道はするのであるが、デスクトップがモニターに現れない。明らかに異常が生じていた。これは停電の影響でOS(Winodws 7 Ultimate)が壊れたらしい。実は、このOSは販売店(IT CITY)の海賊版を使用していたので、これが壊れると復旧する方法がないのである。買わなければならない。昼食後、NさんとThe Mall(ザ モール)にあるIT CITYに、PC本体を持って、駆けつけた。 話は飛ぶようであるが、忙しかったということを言うために、ここで言わなければならない。ホームプロという大きな家庭商品を売る店から、かねてのTV32インチ(サムスン)が届いた。幸い、Nさんがなぜか2台のDVDデッキを自宅から持ち込んでいた(いずれもソニーとか日本製の高級機種である)ので、テクニシャン(技術工)に、32インチは居間に、古い24インチはぼくの寝室に、それぞれ既存のDVDデッキにつないでくれと、注文した。実に誠実にそのとおりに実行してくれた。これでベッドでTVとDVD鑑賞ができるし、ニックとチャンネル争いをしなくてすむ。 PC本体を持って店に駆け込んだ。日本でもよく見かけるタイプの若い店員は悪びれることなく、これは違法でから、壊れてしまえばそれまでよという。ぼくはこの国の商法に納得できないものを感じていたのであるが、郷に入っては郷に従えの教えのとおり、お金を惜しまず、OSを買うことにした。同じWinodws 7でも、各種ある。見栄を張るというわけではないが、もっとも高いWinodws 7 Ultimate extendedを指差し、これをくれと言った。その決断がとても速かったので、若い店員が驚いて何回かぼくの意向を確かめていた。「ほんとにこれでいいのか」と。Nさんの解説によると、こんなにあっさり最高級品を買う客はいままでにいなかったから、彼が念を入れたのだという。 ぼくのデータをPCのどこかに保存することを要求したので、インストールに2時間ほどかかるという。Nさんとザ モールをぶらぶら歩いた。Nさんが、歩くということは、ものすごい量の商品を買うということである。その買い物の中で特筆すべきは、奇妙な鍋セットである。「今日は、忙しかったし、かねての諸問題が解決するので、スペシアル ディナーにしましょう」という。ぼくは毎食、毎日スペシアル料理を食べているので、スペシアルとはどういう意味?とたずねると、「この間、ニックと挑戦した庭でのバーベキューが雨で失敗したので、そのリベンジよ」という。ちなみに彼女の血液型はB型である。このタイプは日本=TH国共通らしい。 PCもインストール完成して、帰宅し、Nさんはせっせとバーベキュー鍋とでも名づけるものの準備をしていた。その間、ぼくはPCと周辺機器と接続し、英語・日本語・TH語三カ国の言語に対応できる環境に改変した。まだうまくプリンター(HP社の4イン1)が作動しないが、基本的に日本から持ち込んだソフトのインストールが完了できる見込みが立った。意外に手間取ったのが、日本製のソフトはインストールするときに文字化けしてしまう。これを是正するのに時間がかかったことである。 階下に行くと、玄関テラスにすでに鍋の準備ができている。木炭のコンロに火を入れて、かぶせた蓋の中央に盛り上がった部分に、肉、野菜、魚介を置いて焼く。その周囲の溝にスープを配して、あとは熱くなるのを待つだけ。簡単ではあるが、こういう豪華な食事をNさんは作れるのである。どうして、クックはやったことがない、などというのだろう?Nさんは自信がついたらしく、「こんどお客様が見えたら これを作りましょう」 彼女も大変疲れたと思う。ありがたいことである。