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ひよきちわーるど

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2008.04.16
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カテゴリ:季節の美
この街では桜の時期も過ぎ やがて葉桜の季節に移ろうとしている。


・・幼い頃は、ただ桜の優しい姿に心を奪われ柔らかな色に惹かれていたものだけれど
少しずつ年を重ねるにつれ 桜の花は私にとって
少しも馴染まぬ、冷たいもののように感じられるようになった。

・・・「冷たい」という言葉はどこか違うのかもしれない。
しかし、今の私にはそれ以外の言葉が浮かんでこないのである。


確かにこの楽天のスペースにおいて
桜への自分の想いを書き綴ることもあるのだけれど
前日の日記にも書いているとおり
それは私が桜の花を深く愛しているから、ではない。

街を歩けば容赦なく
視界に桜の花が入り込んでくるからというだけのことである。

数年前の日記にも書いているとおり
染井吉野の花はどうにも好きになれず
眺めているうちに「もう、結構。」という気持ちにさえも。

むしろ 白く咲きこぼれる山桜に惹かれる。




季節の始まりにはいつも白い花が咲くものだけれど
そう、冬には白椿、夏には白い野茨。

そして、その白い花には 自然と心を寄せることもできるのだけれど
桜の花に対しては何処か馴染まぬものを感じる。

・・・この花は「何か」を突きつけてくるのだ。




他の花々に対しては「また逢えましたね」という気持ちで
再会を喜ぶこともできるというのに

桜の花に対してだけは
「この花をあと何度見ることができるだろうか」という
まこと切羽詰まった もの哀しい気持ちがついてまわる。




・・・殊に今年の桜はそうであった。

先程までこの世に在った祖母が
斎場を出る頃には小さな小さな箱の中におさまってしまった。

お箸でひとつひとつ祖母をおさめる中
人間の一生とは一体何であろうと考えずにはいられなかった。


・・・祖母を取り囲んでいた親族も 
いずれは誰1人例外なくこの世を去り

そしてやがては私も斎場に横たわる身となり
誰かの手により箱におさめられてゆくのである。

最終的にこんな小さな箱に入ってゆくものであるならば
何故に私たちはこの世に生まれ出ねばならないのかと
この春は 誰に訊くともなしに
独り、心で呟いていた。



・・・そんな中 出会ったのが今年の桜だった。




おそらくは人生の半ばを過ぎた頃から
桜は 自身の心を映し出す花となっている。

自身が生の歓喜に満ちあふれるときには
桜もともに輝き万朶と咲き香るけれども

今年の春のように 親族を喪い無常感に囚われるときには
桜もまた、息を潜めて私を見つめている。




・・上述の「桜の花に冷たさを感じる」という言葉を置き換えるとするならば
距離を感じる、ということだろうか。

そう、子どもの頃には優しく寄り添ってくれていたはずの桜の花が
こちらが年を重ねるにつれ 
その距離を少しずつ遠くのばしてゆくのである。

そして今では花々が
「我は我であり、汝は汝。ただそれだけのこと。」と言い放っているような
そんな気持ちにさえなっていたのだ。



・・桜に対し、形容し難い想いを抱いていたここ数年ではあったけれど
祖母を見送り斎場を出るとき 入口に咲いていた満開の桜を見て
しばらく忘れ去っていた桜に対する親しさを
(僅かではあるが)取り戻すことができたのだ。


鈍色の空のもと 項垂れて斎場を出ようとしていた私たちを
桜の花が見つめていた。

それはあたかも 少し心配気味にこちらをのぞき込んでいるようで
・・・言葉で慰めようとするわけでもなく
ただ、こちらに心を寄せてくれているかのようだった。





この年になって、私は改めて桜との距離をはかりかねている。

・・・ただ わかっていることは
桜は最早 私にとって優しい母親ではなく
おそらくは女友達のようなものかもしれない、と。

お互いに気心の知れた仲ではあるけれど
しかしきちんと距離をも保っている。
そして いつも遠くから見つめてくれている。






この年になって 切に思うこと。

・・・桜は、私にとって
人生のおそらくは半分以上を過ぎた私にとって

時には自身を映し出す鏡のような存在であり
そして、生きてゆくうえでの大切な伴侶なのかもしれない、と。











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Last updated  2015.04.18 14:13:42
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