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2014/05/17(土)00:44

魔を操るかわりに 闇を引き受ける オーリエラントの魔道師たち~小説『オーリエラントの魔道師たち』

日本のファンタジー小説(22)

魔道士シリーズの連作短編集です。 【送料無料】オーリエラントの魔道師たち [ 乾石智子 ]楽天ブックス オーリエラントの魔道師たち Scribe in the Darkness 乾石智子  既刊長編(『夜の写本師』『魔道師の月』『太陽の石』)にも様々な魔法と魔道士達が登場したが、本篇では一部お馴染みのそれらに加えて、新たな魔法が紹介される。その中で強調されるのは、本シリーズでも何度となく述べられてきた、人間ならぬ力を持ち何でも出来るかわりに、闇や澱みを自らの中に引き込まなければならないという、魔道士のプラスとマイナス面である。闇や澱みを体内に引き込めない魔道士は『魔道師の月』に登場した某魔道士のように、困難から逃げているとされてしまい、優秀とは言えない。人間が成長するためには正論ばかりではやっていけないのと同じである。  さりとて、マイナス部分を自分のうちに取りこみ、うまく扱うのはどんな熟練した魔道士でも至難の業である。その最たるものが『黒蓮華』だ。復讐者である顔のない魔道士と、復讐される側の家族の一人、という二人によって語られる本作は、復讐者の心理を読者だけが知り、かつ、復讐者の正体だけは読者にも復讐される側の家族にも最後まで明かされないという、サスペンス色の強い作品である。プアダンという人間や動物などの死体の一部を使用する魔法は、使う者の内面をどんどん蝕んでゆく。その蝕まれていく様子が黒い蓮に例えられており、その不気味さの高まりは、復讐される側が感じる恐怖の高まりと相まって、相乗効果を上げている。  『黒蓮華』は魔道士が行きつくところまで行ってしまったが、『闇を抱く』は、魔女が、そのとば口で立ち止まる術を教えてくれる。虐げられた女性を救うために活躍する女性だけの士組織が登場するが、これも昨今のDVに悩む女性のためのシェルターを彷彿とさせる。ここで魔女が「善意のない魔法を使うのは、自分の良心を体力と一緒に削っていく行為なの。人を呪うことはそんなに簡単なことじゃないわ」と警告を発するが、これが魔を使う者が利点と共に引き受けなければならない業である。またこれは、出来るとなれば際限なく復讐を望む人間への警告でもある。そうはいっても真面目な警告ばかりが述べられているのではなく、軽く見られている女性達が男性達を出し抜くという痛快な面も持っているのでご安心を。  出し抜くといえば『紐結びの魔道師』『魔道写本師』も、ある種出し抜く話である。後者には第一作で主人公を助けた師匠が登場するので、密かなファンである、という方は是非読んでみて欲しい。  

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