2018/09/11(火)21:36
暗闇に光を当てるのは~小説「暗闇のなかで」
みなさん、こんばんは。高校野球も終わりました。
金足農の吉田選手たちに注目が集まっていますね。
こちらの本は第二次大戦の推移をドイツ側の視点で書いた本です。
暗闇のなかで
The Dark Room
レイチェルシーファー(著者)
高瀬素子(訳者)
本編は三章から成り、三人の登場人物を通して戦中、戦後、現在のドイツが描かれる。
第一章の主人公はヘルムート。1921年に先天的な障害を持って生まれた彼は、両親の配慮により、最初は障害を意識することはなかった。しかし学校で集団生活が始まり、戦争が始まると、「皆とは違う自分」を嫌でも意識させられる。第一次大戦後の莫大な賠償金に喘ぐ中生きてきた彼には、総統への不信感や忌避感はない。「戦争は不治の病人(身体障害者や精神障害者を指す)を抹殺する絶好の機会である」と総統が言ったことも知らず、兵隊となって戦場に行くことを夢見る。国を信じて揺るがないヘルムートが、これからドイツを襲う困難によって、どうなってゆくのか。
第二章はローレ。ヘルムートのエピソードが終わる1945年から始まる。このエピソードは映画「さよなら、アドルフ」になった。親衛隊員の父を持つローレの立場は、物語の最初と最後で大きく変わる。それまでは裕福な暮らしをしていたのに、突如母親が逮捕され、幼い弟妹を連れて、遠いハンブルグまで旅をする。ソ連兵が乗り込んできている中を旅行するなんて大人でも危険なのだから、経験値の少ないローレ達の旅は困難を極める。そしてローレは旅の途中でナチスドイツの所業を知る。ヘルムートとは異なり、作品中で心が大きく揺れ動くキャラクターだ。戦争までは天皇万歳、負けた途端に価値観の逆転が起こる日本人が、最も共感を寄せやすいのではないだろうか。
第三章はミヒャ。彼自身は差別意識も何も持っていないが、亡き父がナチス党員だった事を知り動揺する。ミヒャが戦後生まれながらもっとも罪の意識に苛まれるのは、作者の想いが最も投入されたキャラクターだからだ。
三人は一度もすれ違うことはない。時代が下るに従い、第二次大戦時のヒトラーやナチスの行為に対する彼等の意識が異なる。重要なモチーフとして登場するのが写真だ。
ヘルムートはSSに連行されるロマの人達を写真に撮影するが、恐ろしさだけが先に立ち、写真をすべて廃棄する。
無自覚だったローレは、強制収容所の写真を見たドイツ人が「ぜんぶでっち上げさ。写真は決まってピンぼけだろ?」「あれは芝居なんだよ。アメリカ人の俳優が演じてるのさ」と話すのを聞く。ミヒャは幸せそうなハネムーンの写真を見るにつけ、祖父が残酷な事をしたとは思えない。
写真は嘘をつかない。事実だけを掬い取る。誰かの優しい父、優しい息子が、国の命令とあれば、残虐な行為もやってのける。ドイツだけでなく、日本でもそうだった。過去をなかったことにしようとする人たちにとっては、写真は厄介な存在だ。しかし、過去を見つめ直して生きていこうとする人たちにとっては、写真は光となって手掛かりを照らす。
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