2018/11/30(金)00:00
パトリシア・ハイスミスが最も愛した悪党 トム・リプリー ラストステージ~小説「死者と踊るリプリー」
みなさん、こんばんは。外国人入管法が衆議院で可決してしまいましたね。
何か最近強行採決が多いです。
さて、こちらはパトリシア・ハイスミスが最も愛してやまない主人公の最終章です。
死者と踊るリプリー
Ripley Under Water
パトリシア・ハイスミス
河出文庫
「そして二人はいつまでも幸せに暮らしました」は悪党に苦しめられた善人に許された結末だ。しかし例外もある。作者が悪党を愛している場合だ。トム・リプリーは、殺人も犯罪も犯しながら妻と「幸せに暮らして」いる。
そんな彼をまるで待ち伏せしているかのように現れるアメリカ人夫妻がいる。といっても積極的なのは夫の方で、妻は夫に怯えているようだ。彼等を避けようとするリプリーに、死んだはずのディッキーを名乗る電話がかかってくる。
内容的には『贋作』に続く。
他ならぬリプリーが殺したのだから電話は明らかに別人で、リプリーは早いうちに犯人の見当もつける。ただ、動機がわからない。相手はリプリーを「紳士気取りの悪党」と呼ぶが、偽者であることを告発したいなら脅迫という卑怯な手段を択ばず、警察に打ち明ければいい。ディッキーは圧力をかけられる町の名士ではないのだ。となれば、単に嫌がらせがしたい―今でいうストーカー心理―か。
一方、受けて立つ方のリプリーの動機は「自らの生活を守るため」とはっきりしている。
『贋作』でも本物と偽物についての言及があったが、本作でも偽物を肯定している。
「タフツとダーワットがこれほど混然一体であれば、すくなくともこれらのデッサンの一部、あるいは大半は、芸術的観点から両者を区別することは不可能ではないか」
「いくつかの意味で、バーナード・タフツはダーワットと化していた。バーナードが恥辱にまみれ、錯乱状態で死んでいったのは、贋作が成功したためだ。それどころか、ダーワットになりきり、ダーワットの昔ながらの生活に倣い、その絵画、その準備デッサンにおいても、ダーワットそのものだった」
「本物を超える偽物がある」ことを仕事と人生で実践している彼は、もう一つの真実―犯罪―を、悉く水底に沈める。もちろん簡単には浮かび上がってこないが、いつか水が干上がる時が来る。その時彼がもう一つの真実とどう向き合うのか。
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