2019/09/07(土)13:20
もうひとつの幕末史 もうひとりの沖田~小説『 新徴組』
みなさん、こんばんは。瀬戸大也選手がオリンピック選手に内定しましたね。これから続々と決まってゆくのでしょうか。
今日からしばらく佐藤賢一さんの作品を紹介します。
あの沖田総司に兄弟がいたことを知っていますか?
新徴組
佐藤賢一
新潮社
佐藤賢一作品は、とにかく主人公の破天荒なイメージが強かった。『双頭の鷲』のデュ・ゲクラン、『褐色の文豪』のアレクサンドル=デュマ、そして『小説フランス革命』ではミラボーをはじめとして、フランス革命の立役者のうち、誰をとっても個性的。佐藤氏は、遥か遠くにいた歴史上の人物を、「並外れた能力は持っているが、どこかちょっと子供っぽいところがある人」として描くことで、私たちの身近に引きずりおろし、親しみを感じさせてくれた。
だから、長年佐藤作品を読んできた方たちは、本作の主人公、沖田総次郎や庄内藩家老の息子・酒井吉之丞に、意外な印象を持つだろう。何しろ破天荒さが少しもない。彼等は平穏を愛するタイプだ。波風を立てぬように生き、昨日と同じ日常がこれからも続いてくれることを望んでいる。同じ幕末には、倒幕、尊王攘夷、公武合体とさまざまな動きがあったにも関わらず、である。主人公とするならば、総次郎の義弟・総司の方が、よっぽどふさわしいのではないかと思われる。
だが一方で、大河ドラマしかり【激動の幕末を自分の主義主張を貫いた人々】の話ならば、もう散々見てきたのも事実である。そして、歴史書に書かれていたからといって、数多くの『普通の人々』が、歴史上の人物のように、どちらかの立場に立って激しく争っていたわけではない。どちらかといえば、総次郎のように、なるべくもめごとから避けようと努めていたに違いない。だが、彼らのスタンスや思いは、『普通』であるだけに、作品になりにくいし、地味で読まれにくい。だが、滅びゆくものたちの中にも一つの矜持があり、派手な江戸や京都の戦だけではなく、都から遠く離れた東北の地で、村を焼かれた人々もいたのだ。『普通』であるがゆえに作品とならなかった目立たぬ彼らの生き方もまた、分かち難い日本の歴史の一部であるのだから、もっと作品として出てきて良いのではないだろうか。読まれるかどうか、面白いかどうかは、要は中身次第だ。
本作が、主人公の破天荒さを前面に出さずとも読ませる作品であることは、氏の作家としての幅が広がったということに繋がると思う。今後、氏がどのような作品を生み出してゆくのか楽しみである。
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