2020/11/28(土)00:00
繋がる 二つの時代 二人の女性 小説「彼女たちの部屋」
みなさん、こんばんは。今年の日本シリーズはあっけなくソフトバンクが4連勝しましたね。
今日はフランスの小説を紹介します。
彼女たちの部屋
Les Victorieuses
レティシア・コロンバニ
早川書房
書籍をばっと開くと、様々な髪の色、肌の色の女性達が見える。その中で一人だけこちらを向いている金髪女性が本編ヒロインの一人、ソレーヌだ。
現代、パリ。目の前でクライアントが敗訴を苦に飛び降り自殺した弁護士のソレーヌは、ショックで鬱になり、精神科医からボランティアを勧められ、ある保護施設で代書人のボランティアをはじめた。女性会館というその施設には、暴力や貧困、差別のせいで住居を追われた人々が暮らしている。自分とはまるで異なる境遇にいる居住者たちの思いがけない依頼に、ソレーヌは戸惑ったが一人ひとりと話して、手紙を綴るなかで、ソレーヌと居住者たちの人生は交わっていく。
約100年前、パリ。救世軍のブランシュは街中の貧困と闘っていた。路頭に迷うすべての女性と子供が身を寄せられる施設をつくる―彼女の計画は、ついに政治家・財界人も動かしつつあったが…。
前作『三つ編み』は、異なる場所にいる三人の女性が髪を通じて繋がる物語だった。本編は女性会館という実在する保護施設を通じて二人の女性が時空を越えて繋がる物語だ。とはいっても二人のバックグラウンドは異なる。ソレーヌは文学が好きだったが、共に法学教授だった両親の意向で堅実な職業。幸せになれるかどうかの問題ではない弁護士を選ぶ。ブランシュは大尉との結婚も決まっていたが、救世軍との出会いで自分の天職はこれだ!と決めたら一直線。そもそもの始まりから他人に決められていたソレーヌと、自分で選んだブランシュ。勧めによって、ある種施しのような気分でボランティアを始めたソレーヌと、内なる意思に突き動かされたブランシュ。物語が進む中で、大きく気持ちが揺れ動くのは前者である。決然としたヒロインと、惑いながら道を見つけ出すヒロイン、二人のヒロインの違いを噛みしめて読む。
顧客はセレブばかりでいわゆるバリキャリに見えるソレーヌ。気ままな独身暮らしを楽しんでいるかに見え、自分でもそのように装っていた彼女は、冒頭に挙げた事件で傷つき、更に自分には“子供は欲しくない”と言っていた元恋人が子供連れで歩いている場面に出くわして打ちのめされる。ブランシュは
「子供をひとり凍え死なせて全人類など救えるわけがない。失敗、惨敗、これまで喫した敗北のなかで、いちばん痛烈な敗北だ。世界を変えようなんて思いあがりもいいところ!自分の行為はばかみたいにちっぽけで、悲しみの大海の一滴の水。この瞬間、すべてがむなしく無駄にみえる。」
どんなに頑張っても減らない貧困と足りない資金と設備にくじけそうになる。ソレーヌを支えてくれたのはボランティアで出会った人達、ブランシュを支えたのは同じ志で隣にいてくれた夫だ。一人でできないことでも、側にいてくれる誰かに背を押されて、彼女たちは自分の部屋=居場所を社会に見出してゆく。そしてそんな彼女たちは、まぎれもなく勝利者=Les victorieuses(原題)である。
フェミニズムと構えて読まなくても、純粋に読み物としてストーリーを追う楽しみがある。
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