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2024/08/31(土)11:09

ルーゴン・マッカール叢書第9巻 崩れ行く第二帝政と美貌が崩れ行く伝説の娼婦 小説「ナナ」

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みなさんこんばんは。華やかなパリオリンピック開会式を見ましたか?ところでパリではオリンピック開催を前に路上のホームレスを退去させているとの報道もありました。 今日もエミール・ゾラ作品を紹介します。 ナナ Nana エミール・ゾラ  岩波文庫 居酒屋の女主人公の娘としてパリの労働者街に生れたナナは、初登場時、かなり煽られる。ヴァリエテ座の新作のヒロイン、それも美神ヴィナスに抜擢されながら、誰もその演技を見たことがない。皆事情通と思われる支配人に聞くと声は噴霧器、演技は木偶の坊だという。とてもヒロインになれそうにない属性だが、支配人は更に続ける。 「ナナにはちゃんと別の物がありまさあ。ほかのすべての物に代る物があるんだよ。」  前評判で期待が高まる中、やっとナナが登場。しかしやはり節回しの調子はずれな声、演技は体をゆすぶりながら両手を前に投げ出す一つ覚え。ヒロインとは思えない、冴えない登場だ。少なくとも演劇ドラマのヒロインにはなれない。  しかしながら、劇が進む毎に、パリ社交界は新たなヴィナスの出現に圧倒される。 「今では男という男は悉くナナに参っていた。交尾期の動物からのように彼女からたちのぼる春情は、刻一刻と拡がって、場内一杯に立ちこめていた。今ではもうナナの一挙手一投足が人々の情欲をそそり、小指一本の動きさえ内情を掻き立てていた」  初登場時18歳だっていうのに、本当にそんな色気が?盛りすぎでは?  そうはいっても当時の18歳は大人びている。彼女には異父兄弟のエティエンヌとクロードがいるが、長いスパンの物語なのに、一切連絡を取り合う描写がない。さすが個人主義のお国柄と言おうか。彼女の息子の面倒を見てくれている叔母だけ面倒を見て、両親については悪口ばかり言っている。まあ確かに居酒屋で描かれる両親は、酒で身を持ち崩し、借金まみれで死んでいったわけで、尊敬には値しないが。  冒頭、フランス貴族たちの間では「プロイセンのビスマルク伯爵がどうやら才気のある人らしい」という噂が飛び交い、「フランスに攻めてくるのでは?」という話も持ち上がるが、特に根拠があるわけではない。やがて彼がフランス最大の敵となる事も知らず、かつ、普仏戦争によってブルジョアに対抗する労働者勢力が現れることも知らない。身の回りの事に目を配っていれば良い、つかの間の平和を楽しむ貴族たちの姿が描かれる。高級娼婦でもあるナナは、このブルジョア社会の名士たちから巨額の金を巻きあげ、次々とその全生活を破滅させてゆく。 ラスト、ナナは若くして天然痘にかかり最後は醜い姿と化し、ほとんどの人々に知られぬままパリで亡くなる。ナナの亡くなった部屋の外で叫ばれる、普仏戦争の始まりを告げる群衆の「ベルリンへ!ベルリンへ!」という声で物語は終わる。普仏戦争はフランス第二帝政の息の根を止める戦争となることを、まだ誰も知らない。ナナの美貌が崩れてゆく様とフランスの政体が崩れゆく過程がリンクしている。 ​ナナ (新潮文庫) [ ゾラ ]​​楽天ブックス

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