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エレベーターの扉が開くと一人の女性が降りた。そして、高らかに靴音を響かせてまっすぐと廊下を歩いてゆく。
「お帰りなさい、ミズ不遇田」 「ええ。久しぶりね」 途中、何度か声をかけられるも返事には愛想がない。なにやら急いでいるようである。 ある部屋の前で彼女の足音が止まった。 彼女は273と書かれているその扉をノックした。 「だれだ?」 年配の男の声が部屋の中から聞こえてきた。 「紗々英でございます」 そこは東京にある山川商事という会社の地下であった。この会社自体、磯野家が作った架空の会社である。 廊下の突き当たりの273と書かれた広い部屋、その中に紗々英はいた。 「早かったではないか」 部屋の真ん中には巨大な机が置かれており、セットになってる椅子には一人の年配の男。頭はハゲていて、丸眼鏡、鼻の下にはちょこんと髭が付いている。一見、何の威厳もないのだが、偉そうに座っていた。 「そうなのよ!増男さんの知らせを聞いて飛んできたのよ。それでも途中でイワン少佐に会ってタイムロスするところだったわ」 「オオー!サザーエ!ハラショー!ハラショー!」 元ソ連軍特殊部隊スペツナズの鮮血の赤いブリザード、イワン=スミルノフ少佐は、自分を攻撃したのが紗々英だと気づくと態度を一変させ。和やかムードで近づいてきた。そして、おもむろに紗々英とハグをするとなにやらしゃべり始めた。 「お父上は元気か」 「ええ。もちろんよ」 イワン少佐を雇っていたテロ組織はあまりにも素人だった。やることなすことどこか抜けている。もうこんなやつらに付き合ってはいられない。ギャラをもらってさっさと帰ろう。そう考えたイワン少佐だったが、このテロ組織にはイワン少佐のギャラも用意できないほど資金もない。そこでイワン少佐は雇い主のテロ組織に脅しをかけてみた、ギャラが払えないなら俺がお前たちを潰すぞ。と。そうしたら彼らは日本の自衛官をさらってきた。日本人は金を持ってるからだという。そしてよせばいいのに、撤退をするか法外な金額を払うかなどと、変な条件を出して、撤退を選ばれたあとも更に金を要求するなど、目に余っていたところだった。紗々英が潰さなければ、俺が本当に潰すところだった。というのだ。 真偽はわからないが、イワン少佐に敵意がないと思った紗々英は人質だった自衛官の護送をイワン少佐に依頼し、その護送のギャラの支払いを日本政府に取り付けた。金額としては少なかったが、傭兵としてのギャラをもらい損ねるところだったイワン少佐は喜んでその仕事を引き受けてくれた。おかげで紗々英は飛行機にも間に合いこうして帰って来れたわけだ。 「イワン少佐か。懐かしいな。エリツィン大統領の前で彼とピロシキの大食い勝負をしたんだ。もちろんわしが勝ったんだが、以来彼とは親友じゃよ」 波平は得意げにそういった。 「父さん、ところで、増男さんは?」 「ああ、奥の部屋にいるぞ。増男君!」 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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