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☆りん

☆りん

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2006.08.18
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 明治維新の裏で活躍した人物に磯野藻屑源素太皆(いそのもくずみなもとのすたみな)がいた。彼は殿様の御前でおはぎを38個も平らげ、殿様からお褒めに与ったという逸話を持つ武士で、大宰府や三条実美の護衛などの任についたこともあり、西郷隆盛とも顔見知りであった。また、このころ、坂本龍馬とも会っており、薩長連合は坂本龍馬ではなく、本当は彼が橋渡ししたということは歴史の闇に葬り去られている。
 その後、磯野家はことあるごとに歴史の裏で活躍することになる。
 太平洋戦争のときもトルーマンが最も恐れたのが磯野家の交渉能力であったとも言われている。だが、日本政府はその能力を認めず、ついに磯野家が終戦交渉の席に着くことはなかった。もしも、磯野家の交渉能力を使っていたならば戦局は大きく変わっていただろうと思われる。しかし、その交渉能力に目をつけたトルーマン以下、歴代アメリカ大統領は冷戦下での外交の切り札として磯野家を利用している。
 代は変わり、キューバ危機を救い、ゴルバチョフのペレストロイカ、独立国家共同体(CSI)の結成、ソビエト連邦解体まで、裏側で動いていたのはここにいる波平だった。
 波平はコードネーム273、ツナミと呼ばれていた。その名は西側だけでなく、東側にも知られ、007のライバルたるのは273くらいしかいない。とまで言われるほどだった。
 紗々英と勝男に大きな年の差があるのは波平が長らくソビエトに滞在していたためである。
 現在、波平は一線を退き、その後任に紗々英がついている。コードネームは3373。サザナミである。
 ちなみに、磯野家本家は日本専属の交渉機関として拠点を福岡に置いている。波平や紗々英は分家なので、外国からの依頼を受けての仕事がメインとなっている。

 「へぇ~、そんなことが・・・僕は全く気が付きませんでしたよ。それで紗々英が仕事でなかなか帰ってこなくなったんですか・・・」
増男は5年前、紗々英が就職した頃のことを思い出していた。こんな仕事をしていたのなら知らない男と歩いていたって何の不思議もない。その男となれなれしい態度だったのもきっと何か情報を得るためだったのだろう。そう思うと、あの時自分がした数々の行為を再び恥じ、また、情けなく思えてくるのであった。
「そうなのよ。今まで内緒にしていてごめんなさい」
「とういうわけなのじゃ。増男くんにはこれからは磯野家の一員として紗々英とともに動いてもらうこととなるが、やってくれるよな」
あんなことをして家を飛び出してしまった自分をここまで温かく迎えてくれる二人に増男は熱いものがこみ上げてくるようであった。
「わかりました。一度は捨てた家族です、もう一度家族として認めてもらえるのならどんなことでもしますよ」
増男の目にはかつての輝きがもどってきていた。
「よし、いい返事だ。それでは、早速北朝鮮に情報収集のために夫婦として潜入してくれ、紗々英、いや、コードネーム3373、後は頼んだぞ」
波平の言葉に紗々英は力強く答えた。
「まかせて!」


 日曜の夕どき、磯野家の縁側で二人の老人が碁盤を挟んでなにやら話をしている。
「と、いう話を、今の仕事が定年になったらワシも書いてみようと思っているのですが、伊佐坂先生、プロの目から見て正直、どうでしょう?」
丸顔の老人が黒石を置きながらそういった。
「ふむ。まだまだですな。設定が突飛過ぎる。素人はこれだからいけませんな」
面長の老人は白石を置きながらそう答えた。
「なんですと!そんな顔で恋愛小説なんぞ書いてるくせに」
盤上の情勢が悪いのか黒石の老人は少し口調が荒い。
「ホホホ、顔は関係ないではないですか!だいたい私が出てこないのがおかしいですな。私がスナイパーかなんかの役で出てくるのならいいかもしれませんですなぁ」
やはり、白石の老人のほうが囲碁では勝っているのか少し余裕のある口ぶりだ。
「そんなジジィのスナイパーなんておりゃせんよ」
しかし、黒石の老人のこの一手で流れは変わってくる。
「なんですと!嫌な奴がいたではないですか。タラちゃんの学校の先生かなんか、そいつを狙撃するってのはどうですかな」
白石の老人のかなりいい手が炸裂した。
「その先生役はあなたの息子だ」
それを黒石の老人が鮮やかに返す。
「そ、そうだったか?だいたい、あなたのほうこそ、自分の娘を陵辱などと、よくあんな目にあわせられる」
白石の老人は精一杯の一手を打った。
「そこがおもしろいじゃ、ありませんか」
それでも黒石の老人の次の一手は強烈なものであった。
「ぐっ。うーむ。それが妄想のよいところか。おっ、もう六時半ですな」
どうやら今日は黒石の老人が勝った様である。
「そろそろおひらきにしましょうか」
黒石の老人は少しうれしそうにそう言った。
「そうですな、私もあのテレビを見ないといけないのでおいとましますよ」
白石の老人が庭のほうから帰ろうと立ち上がった。
「おお、伊佐坂先生もあの番組を?」
「もちろんですよ。うちではもう数年来、日曜の夕方といえばあの番組ですよ。そういえば、磯野さんの今の話、あの一家をモデルにしてますな?」
「いやはや、バレましたか・・・ハハハハハ」

 こうして日曜日は終わり、新たな一週間が始まるのであった。

おわり





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最終更新日  2006.08.18 14:21:10
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