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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:リクエストフィクション
お待たせしました。
リクエストフィクションです。 お題は、ハンドボール、ポイントカード、水性ボールペンです。 ちょっと長いけど勘弁してください。 タイトル「太山商事」 僕の住む町に太山商事というお店がある。 このお店はかなり昔からあるようで、地上3階、地下1階からなる、おそらく出来た当時はかなり立派だったと思われる店構えで、品揃えは、ネジ一本から、鍋、茶碗、プロ用の工具、道具、家具、家電、プロパンガス、家を建てるときに使う建材まで、なんでも一通り手に入るようになっている。さらに、道を挟んだ向かい側には小さなガソリンスタンドも所有し、店の裏側には変な外国人が住んでいるという噂のある、築ン十年というアパートまで所有している。 今風に言えばホームセンターみたいなものだが、まさに雑貨屋、なまもの以外は何でもあるお店である。 ただ、気になる点もある。 あまりにも商品がいろいろありすぎて、素人には目的の品物を探し出せないということと、ちょっと珍しいものは明らかに僕が生まれてくる前くらいに仕入れたんじゃない?って物まで平気で売られていることだ。 僕はその日、ハンドボールという、料理に使う片手用のボウルを買いに太山商事に行った。 店番は名物のばぁさんが一人。最近は耳も遠いし、ちょっと頭のほうも衰えているようで、同じことを何度も聞いてくる。この前来たときはポイントカード、といっても、ただのスタンプカードなんだけど、その、ポイントカードのハンコを間違って多く押したりもしていた。それはそれで、貯まると商品券として使えるから嬉しいので、こっちも気がつかなかったことにしていたんだけど。また間違えないかな、なんて期待を抱いたりもしている。 「ハンドボールありますか?」 「えっ、何?」 ほら、やっぱり聞き返してきた。 「ハンドボール、片手用のボウルですよ」 僕は軽くジェスチャーを交えながらもう一度言った。 「ああ、あるよ」 そう言うとばぁさんはゆっくりとした足取りで天井まで届きそうなくらい高い棚と棚の間の闇の中に消えていった。 僕はばぁさんを待つ間、手近な棚にある何に使うかわからない金具なんかを手にとって時間を潰す。そんな時、この店では独特のゆったりとした時間が流れているような錯覚を覚える。 そういえば、ボールペンのインクが切れていたんだった。水性ボールペンは書き心地はいいのだが、いたずら書きに使うとすぐインクがなくなる。もちろん、この店なら僕のお気に入りの水性ボールペンも手に入るだろう。ただ、どこに置いてあるかはわからないけど。 「あったよ」 ばぁさんはすっかり黄ばんだビニール袋からピカピカのハンドボールを取り出して僕に見せた。 確かに。僕が欲しかったのはこれだ。だけど、これは一体どこにあったんだ?見つけてきたというより、発掘してきたと言ったほうがよさそうだった。 「あんた、○○さんとこのマゴさんだよね?」 突然、ばぁさんが聞いてきた。 「え?違いますけど」 ○○さんって誰だ?ちゃんと聞き取れなかったから聞き違いかもしれないけど、もうこの町に30年くらい住んでいるけど、一度も聞いたことのない名前だ。 「ありゃ、違ったかい」 ってか、この前来たときも同じようなやりとりをした記憶があるのだが、 「ええ、ちがいますね。それと、おばさん、水性ボールペンってありますか?」 もうこのやり取りはたくさんだ。僕は強引に話しを進めることにした。 「えっ、何?」 やっぱり聞き返してきた。 「ボールペンです、ボールペンってどこにあります?」 やっぱり、使いやすいのを選びたいからね、今度は置いてある場所を聞いてみることにした。 「ああ、ちょっと待ってよ」 そう言うとばぁさんは、今度は店の奥に消えて行った。 店の奥は事務所になっているはずだが、ここからはよく見えない。 奥から箱に入ったボールペンでも出してくるのだろうか? ばぁさんはなかなか戻ってこない。 僕は、こんなに長い間、店番がいなかったら万引きなんてし放題だな。と、思ったが、自分の欲しいものがどこにあるかわからないんじゃどうしようもないか。なんて、へんなことを考えていた。 しばらくして、別の客らしい二人組が店内に入ってきた。 彼らは何も言わず少し間隔を開けて僕の後ろのほうに立っている。 早く、ばぁさん、戻ってこないかなぁ。 と、思ってたら来た。そして、僕の顔を見ている。 「ん?ありました?」 「ああ、あんたの後ろだよ」 「え?」 僕は振り返った、すると先ほど入ってきた別の客が僕の顔をじっと見てきた。このときわかった。彼らが噂の変な外国人か。なるほど、たしかに日本人とは明らかに違うんだけど、どこの国から来たのかわからないような顔をしている。 「ポールデス」 「ベンデス」 二人は小さく手を振りながらカタコトの日本語でそう言った。 そうか、ポールとベンというのか。って、間違ってるじゃん! 「おばさん、僕が欲しいのは、ポールとベンじゃなくて…」 それから僕は、じつはこの店の店員で、普段は建材とかを置いてある倉庫でフォークリフトなんかに乗っているというポールとベンとともにボールペンのコーナーを探し出し、なんとかお目当ての水性ボールペンを手に入れることに成功した。 思わぬ時間を食ってしまったがこれでお会計だ。 僕はハンドボールと水性ボールペンの代金を払ってポイントカードを差し出して、ハンコを押してもらった。今回も多めに押してあるかな?という期待を抱きつつ、ちらっとポイントカードを覗いてみたが、今度は押されるべきハンコの数が明らかに一つ足りない。 「ちょっと、おばさん、ハンコの数、足りないよ」 「えっ、何?」 ここで聞き返すのはもはやお約束だ。 「おばさん、ハンコ、足りなくない?」 「いや、あんた、この前来たときに間違って一個多く押しちゃったから、今回、一つ少なくしといたから」 って、それは覚えているのかよ。 おわり お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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