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フランスに留学中、シェフにソリューの「ラ コートドール」に連れて行って
もらいました。人生で初めて行った、3つ星レストランだと思います。 その頃は学生で本場のマナー等は全く知らず、最初にアペリティフを飲む場所 で銀のトレーにたくさんのったアミューズを取る手もぎこちなく、サービスの 女性に「くすっ」と笑われてしまったのを覚えています。 調理場スタッフ、サービススタッフが「あの俊のコピンヌ(ガールフレンド)!」 *注:実家がお寺のシェフは俊英という名前も持っています。 という事でたくさん出てきたのを覚えています。 コートドールは三つ星でも決して気取る事無く、こうした家庭的な雰囲気を 持っています。 それがロワゾーの人柄ではないかな、と思います。 実はコートドールに食事に行く1ヶ月ほど前、ソリューで物産展があり、シェフと コートドール前の駐車場に車を止めて見に行った事がありました。 さあ、帰ろうと車に乗り込み、後ろで何やらいじっているシェフをよそに助手席 でポテトチップスをばりばりやっていた私。 「コンコン」と窓ガラスを叩く音に横を向くと、満面の笑みで窓ガラスに顔を くっつけたつるっぱげのおじさんが! するとシェフが「ロワゾー!ノンシェフ!」と。そうです。ロワゾー氏でした。 うちのシェフもあまりの突然の事に「ロワゾー!」と呼び捨てにしてしまった らしい。 でもあんなにすごい人なのに、こういうお茶目な事をする人なんだ、と今でも 思い出すと笑ってしまいます。 さて初めてロワゾーに行った時、シェフの為に庭に面した部屋を貸切にしてくれ (ほんとはこんな若造の日本人2人組は他のお客様に会わせたくなかったのかも) メートルドテールのユベールがサービスしてくれました。 フロマージュを選ぶ時何とかフランス語で自分も返そうとする私を見て、 「彼女はフランス語が話せるの?」と少し驚いてシェフに聞いていたので 「本の少ししか話せない、、、」と私が言うと 「そんなの全然問題なし!だって私だって日本語は話せない。同じ事じゃない?」 と言われ、目からうろこが落ちる様でした。サービスってこういう事では なかろうか、と。 それから日本に帰り、5年経ってから久々にお正月にまた伺う機会がありました。 調理場に顔を出すと、ロワゾー氏はすごく喜んでくれ、「レストランの調子は どうなの?流行ってる?」と心配してくれていました。思えばそれからたった 2ヶ月でこの世からロワゾー氏はいなくなってしまったのですが、いつもの様に 笑っていてもやっぱり疲労感が顔に出ていたかも、と思います。 どうしてあの年に「フランスにもう一度行こう!」と決心を固めたのか。今でも 私は天のめぐり合わせではないのか、と思います。神様がもう一度最後にロワゾー に会わせてくれたんじゃないか、って。 ロワゾー氏が亡くなった時、「星を失うのが怖かったんじゃないか」とジャーナリスト達は 言っていました。 ロワゾー氏は常に「美味しいもの」の事を考えていた、とシェフはよく言います。 調理場にひょっこり顔を出しては、シェフに「アッシュドブッフ、アッシュドブッフ」 と連呼して、冷蔵庫につれていかれ、ミンチのお肉を焼いたハンバーグの様なもの を作れ、と催促したり、その味が自分の想像したものじゃないと、何度もやり直し させて、満足すると子供の様に喜んで、、、。 お店が大きくなって、市販品をスーパーに出したり、パリに3つのビストロを 作ってみたり、ロワゾー氏の名前が一人歩きした頃からだんだん歯車が狂いだして きたのかな、と思います。 実際、お正月に行った時には新しいレストランを作るのでまたお金がかかるんだ という話をしていたので、お料理の事だけを考えればよかった頃とはもう違うん だなぁ、、、と後から考えて何だか切なくなりました。 さて久々のコートドール。 初訪問の時とは違い、あれからうちのレストランが開店し、仕事柄都内や関西 色々なレストランを見て、フランスの星レストランにも足を運んでからの再訪 です。 それでもやっぱりダントツだとおもいました。 私達のテーブルを中心にくるくるとワルツを踊るようにサービスが施され、 オーケストラの様にお皿が調和し、、、、。まるで夢の世界のようでした。 お料理も本当にどれをとっても完璧に美味しいのですが、やっぱり魅力は ユベールを中心としたサービスだと思います。 ホスピタリティの一言に尽きると思います。 私はサービスでの経験は皆無に等しく、洗練された動きも出来ません。 でもいつもこのユベールの姿勢が頭の中にあり、足元にも及びませんが、永遠に 私の憧れです。 ロワゾーの訃報を聞き、すぐにメールを打った返事は「パトリック(シェフ) とユベールが柱となって、今まで通りのコートドールがいつでもここにあるよ」 というものでした。 素敵な話だな、と思います。それもやっぱりロワゾーという人間の魅力なのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.06.07 23:25:26
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