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カテゴリ:ショートストーリー
魔法のランプ
源五郎は、しがないサラリーマンである。 しがない男は、家では女房子供に はやし立てられ、会社では上司にいびられながらも、毎日仕事の後、 「おお・・・これこれ、この一杯の為に、俺、頑張ってるんだ」 と言いながらビールを飲んで、鼻の下に泡の髭なんか作って生きていた。 そんな源五郎が、ほろ酔い気分での会社の帰りに古道具屋を何げなく覗くと、 「だんな、お勧めの商品がありましてね」 超作り笑いの店主が、古ぼけたランプを持ってきた。 「だんな、これは、かの有名なアラジンの魔法のランプなんですよ」 と言った。 「まさか」 と勿論疑った源五郎だが、そこは楽をしたい願望の強い源五郎であるから、 「万が一にも、本当に、アラジンの魔法のランプだとしたら、 俺は、千載一遇のチャンスを逃すことになる」 と思い、源五郎は、 「おやじさん、これは、いくらですか?」 と聞いた。 ほら来たとばかりに、店主は 「10万円でどうでしょう?」 「10万円?バカに安いなあ・・・本当に、かの有名なアラジンの 魔法のランプだとしたら、10万円どころか、1億円でも買う人が 現れるはずだ。ひょっとして、偽物じゃないの」 「バカ言っちゃいけません。実は、このランプを我が家では祖父の時代から 使っておりました。そのおかげで、我が家は、ずっと、平穏無事であったので す。戦時中10人兄弟であった私の父の兄弟たちも、食糧難の時代でも、 毎日、お腹一杯食べて誰一人として戦争には行きませんでしたし、空襲で命を 失うこともありませんでした。その子の世代にあたる私の兄弟でも、全然勉強 しないのに一流大学一流企業に進み、失恋もなく理想的な結婚をし、豪邸に住み、 遊んでばかりなのに、都合の良いことばっかり、とにかく、やりたい放題で ・・・たまには失敗もしてみたい・・・ 我が家では、もう願いが叶いすぎるのに飽きたのです。あんまり、 何でもかんでも 叶っちゃうのも考えものですよ・・・ダンナ・・あなたなら、人柄も良さそう だし、このランプの中のエージェントとも仲良くやってくれそうです。よっしゃ、 5万円で、どうや。クレジット・リボ払いでオーケーや」 「ほんとに、5万円・・・それと、アラジンの魔法のランプでは エージェントじゃなくて、大男が出てきたよね」 「ああ・・・あれは古い時代です。江戸時代は、ちょんまげだったそうです。 今のエージェントは、普通のサラリーマンのようにネクタイをしめています。 それに日本人ですし・・・」 「ええ??アラビア人じゃなくて・・・」 「テレビに出てくるタレントで言えば、陣内孝則さんのような感じです」 「へえ・・・」 ・・・ 半信半疑の源五郎だったが、とにもかくも、そのランプを手に入れた。 「家に帰る前に、ちょっと試してみるとするか・・」 と、ランプをこすると 「あいや、ご主人様、何なりと御用を伺いますです」 と、本当に、スーツを着た男が出てきた。 「へえ、本当に出てくるんだ」 「もちろんでございます」 そんなわけで、源五郎は、あっという間に大金持ちになって、優雅な生活を するようになった。 こうなっては、女房も子供も、源五郎を尊敬の眼差しで 見るようになったし、会社に行くこともなくなったから、上司にいびられるこ ともなくなった。 もう極楽極楽なのだ。そんな幸せの絶頂のはずの源五郎だが、 どうも元気がない。 あんなに楽しみだった。夕方の一杯のビールが、 ぜんぜん美味しくないのだ。 何のストレスもなく、楽しいことばかりだからだ。 「今さら手放すわけにも行かないしなあ・・・」 と、幸せそうな女房子供を見ながら思い悩む源五郎だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.08.23 08:40:59
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